フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第1回 プラナリアについてもっと知りたい! 京都大学大学院 阿形 清和 教授 インタビュー プラナリアから再生医療が学ぶものはたくさんある

───なぜ、必要に応じて脳や手、足を供給できるのかが不思議です。
ndk遺伝子をノックダウンしたプラナリア(右)脳(紫色に染まっているところ)が体中にできている。左は正常なプラナリア。

ndk遺伝子をノックダウンしたプラナリア(右)
脳(紫色に染まっているところ)が体中にできている。左は正常なプラナリア。

それは、からだのどこに脳や咽頭などをつくるのか、位置情報を制御する遺伝子があるからです。その遺伝子がおまえは脳になれ、咽頭になれ、尾になれと命令しているわけです。

わたしたちは、プラナリアの脳の再生にどの遺伝子が関連しているのかを詳細に調べました。そして、ある遺伝子の機能を停止(ノックダウンという)させたところ、からだのあちこちに眼と脳ができてしまったのです。つまり、この遺伝子が、脳や目玉を頭にだけできるように制御している遺伝子だったのです。

わたしたちは、この遺伝子に「nou-darake(ndk)=脳だらけ」という名前をつけて英国の科学雑誌『nature』に発表しました。最近では、海外の研究者も「ノウダラケ」とちゃんと発音してくれます(笑)。

───「ノウダラケ」の発見はどんな意味を持っているのですか?

全能性の幹細胞が分化する仕組みを遺伝子レベルで解明する第一歩となったということです。

いま、万能細胞を使った再生医療の開発が21世紀の治療法として注目を集めており、ヒトの万能細胞からいかにして自分たちに必要な細胞をつくりだすかが課題となっています。しかし、ES細胞やiPS細胞などの万能細胞を再生医療に使おうとすると、移植した細胞ががん化するなどの問題が発生してしまいます。

細胞の分化の仕組みがわからないまま、単にいろいろな細胞になることができるからといって移植するわけにはいきません。

私たちは、プラナリアの切断された断片が、他の細胞と連関しながら、どのようにして自分に必要な細胞をつくりだせるのか、まわりの細胞と相互作用しながら位置情報を形成するメカニズムを遺伝子レベルで知ることで、ヒトの万能細胞をコントロールするヒントが得られると考えています。プラナリアが日常的に行っていることを科学者が再現することによって初めて、ヒトの万能細胞を自在に操れる時代がくると思うのです。

───現在はどんな研究に取り組んでいらっしゃいますか。

「ノウダラケ」以外に、頭や脳で働く遺伝子の中から再生をコントロールする遺伝子を探しています。

また、これまでのプラナリア研究で得た知見をもとに、マウスのES細胞を発生段階の異なるニワトリの胚に移植し、どの段階で正常な脳が形成されるかを探っています。このほかプラナリアと異なる分化のシステムを持つイモリの再生の研究も進めています。進化の過程で、幹細胞システムがいかなる変化をしてきたかを辿ることで、再生医療に使う幹細胞の基本な性質を理解することを行っています。それらの研究を通して、ヒトのES細胞やiPS細胞といった万能細胞からいろいろな細胞が分化してくる仕組みに新たな光をあてたいですね。

約2万個の遺伝子の中から、再生をコントロールする遺伝子を見つけ出す

約2万個の遺伝子の中から、再生をコントロールする遺伝子を見つけ出す

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