フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第5回 DNA複製のプロセスは? 東京理科大学大学院 科学教育研究科 武村 政春 准教授インタビュー DNAで人間のすべてが決まるわけじゃない!

DNA複製のカギを握るDNAポリメラーゼを研究

───先生の研究テーマの一つが、このDNAの複製ですね。

ええ、私が研究しているのは、DNAを複製させる「DNAポリメラーゼ」という酵素の働きです。ポリメラーゼの働きについては、わかっていることもあるけれど、わかっていないことの方が多い、だから研究の対象としては面白い存在です。
DNAは単独で複製できるわけではなく、いろいろなタンパク質が手助けしてはじめて複製を完成させることができます。DNAポリメラーゼもそうしたタンパク質の一つで、先ほどお話した2本鎖がファスナーのように開かれていったとき、細胞の核にたくさんストックされているヌクレオチドを材料としてDNAを合成、つまり鋳型のDNAに忠実に複製していくのです。

───DNAが複製されるところを観察することができるのですか。

私は、蛍光物質を使ってDNA複製を観察する手法をとっています。通常のヌクレオチドの代わりにある蛍光物質を目印にした“偽物の”ヌクレオチドをDNAの材料にすると、DNAポリメラーゼはそれを本物のヌクレオチドと勘違いして取り込んでくれるので、蛍光顕微鏡で観察できるのです。
真っ暗な中に複製されたDNAが神秘的に光っていて、とても美しいものです。高校生などにこの写真を見せると、「本当に複製されているんだ」と納得し、たいへん喜んでくれますよ。

DNA
───DNAポリメラーゼは、DNAを複製するとき間違うことはないのですか。

DNAポリメラーゼの役割は、どんなときでも忠実に塩基配列をつくってDNAを複製することですが、実際の作業ではエラーをするんですね。10万回に1回とか、1千万回に1回とか、間違った塩基配列をつくってしまう。普通はDNAポリメラーゼ自身、またほかの“修理屋さん”が直してしまうのですが、中には直しきれないものもあるんです。1回の細胞の複製で、最終的に数個のミスが残ってしまうようなのですが、これがDNAの突然変異を促すのです。DNAが何のミスもなく受け継がれていけば、生物が新しい生物に進化することは難しいといえるでしょう。突然変異が起きることによって、DNAの塩基配列が変えられ、生物を進化させていきます。
このような突然変異が、効率よく生物進化に活かされるきっかけとなる現象に、「遺伝子重複」とよばれる現象があります。これは、1つの遺伝子が偶然コピーされ、DNAの別の場所に挿入される現象です。そうすると、DNAの中に同じ遺伝子が二つあることになり、片方の遺伝子が突然変異を起こして機能しなくなっても、もう片方の同じ遺伝子が正常に機能すれば問題がないのです。じつは遺伝子重複が重要な意味をもつのは、重複した遺伝子が機能を失うのではなく、その遺伝子に新たな機能をもった変異が生じ、その変異が蓄積・増幅されて、オリジナルの遺伝子とは違う遺伝子へと変化する可能性が生まれるからなんです。これが、生物に進化を起こさせる原動力の一つになると考えられています。

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