フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第5回 DNA複製のプロセスは? 東京理科大学大学院 科学教育研究科 武村 政春 准教授インタビュー DNAで人間のすべてが決まるわけじゃない!

だれも知らないことを見つけるチャンスに満ちている

───先生が学生だったころと比べて、研究方法は変わっていますか。

私が学生だった1980年代後半から1990年代前半に比べると、研究手法の選択肢が格段に広がっています。遺伝子を“簡単に”扱えるようになったのもそのひとつです。ただ、試薬などに関しては、多くがキット化されて学生が天秤を使って最初から試薬をはかり取り、作らなくて済むようになった。たとえば、遺伝子組換え実験などでも、あらかじめ作製された試薬類がセットされた箱を購入すると、あとは何も考えずに、その箱に添付されている実験書の通りにやれば、それで済んでしまうことも多いんです。
本来研究者は、実験のための道具や試薬を自分たちの手でつくったのですが、それが研究の基礎をつくるわけですし、また研究の何たるかを考え、いいアイディアがひらめくきっかけになるものです。今の状態でいいのかなとときどき思いますね。

───生命科学を研究する楽しさ、おもしろさは?

生命科学の研究がおもしろいというよりも、だれも知らなかったことを最初に知ることの楽しさといえばいいのかなあ。生物のからだの中にはそういった話題、材料がそれこそてんこ盛りで、好奇心を満足させてくれる分野であるとはいえるでしょう。

研究風景

研究風景

───DNA、遺伝子について考えるとき注意しなければならないことはなんでしょう。

DNAや遺伝子がすべてを決めているのではないということをしっかり認識することが大切です。いま、さまざまな生物のゲノムを‘解読する’研究が行われていて、ヒトのゲノムについても2003年に解読され、ヒトの場合、約2万3000個の遺伝子があることがわかりました。こうしたゲノム解読によって、DNAの塩基配列が解明されればヒトのすべてがわかると誤解されがちです。
しかし、解読されたゲノムに占める遺伝子の割合はわずか数パーセントにすぎず、残りのゲノムがどんな意味を持っているのか、まだまだわからないことのほうがはるかに多いのです。生命の起源においてDNAがどうやってできたのかもよくわかっていませんし、またDNAの姉妹分子ともいわれるRNAが、私たちのからだをつくり上げる上でどんな役割をしているかという肝心の研究もまだ始まったばかりなのです。DNAの正体はまだまだ謎であるということを知っておくことが必要です。
世界中から「スポーツ万能で頭がよくてカッコイイ人」を10人選んでクローン人間だけで世界を構成したらどうなるでしょう? 新型インフルエンザの流行で、すぐさま人類が絶滅してしまうかもしれません。また、メンデル遺伝を学習するときに「優性」「劣性」などという言葉が出てきますが、それはあくまでも、その遺伝子のはたらきが表に出てくるか来ないかに対して言う言葉であって、実際にはDNAや遺伝子に優劣などはありません。
ヒトゲノムの解読によって、どんな人でも遺伝子の中に他人とは違う変異が数個存在していると考えられています。あなたは、両親とも、祖父母とも、兄弟姉妹とも、友達とも異なるDNAを持ったオンリーワンの存在であり、世界の人口と同じだけの個性があるのです。こういった遺伝子の多様性こそが、人類のサバイバルを可能にし、今日の社会をつくってきたということを理解してほしいですね。

(2010年4月12日取材)

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