フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第8回 ニューロンの情報伝達の仕組みとは 科学技術振興機構ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト 黒谷 亨研究員インタビュー 基礎から応用への段階に入ってきた脳研究。

電気信号を化学物質に変えて情報を伝達する

───そのシナプスの活動を含めて、情報伝達の仕組みを少し詳しく教えてください。

情報伝達に関係する神経細胞はニューロンといい、大きく分けると細胞体、樹状突起、軸索の3つの部分から成り立っていましたね。このニューロンが脳はもちろん、からだ中にネットワークを張り巡らせて、情報の伝達を行っているわけです。
このネットワークでは、電気を使って信号が送られます。電線の中を電気信号が伝わるのを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、伝え方はそれとは少し違います。
普通、電気を通すのは金属の針金とか伝導体ですね。でも、ニューロンは金属でできているわけではなく、絶縁体なのになぜ電気を送ることができるのかということです。

───どんな方法なのか見当がつきません。

私たちのからだの体液には、たくさんのカリウムイオン、ナトリウムイオン、塩素イオンなどが含まれています。ニューロンも細胞の一種ですから、細胞膜によって外界と隔てられていますが、通常細胞の外の体液とニューロンの中の細胞質のイオンとではその構成が大きく異なっています。たとえば、カリウムイオン濃度は細胞内では高く、細胞の外では低くなっています。また細胞膜には、タンパク質でできた、特定のイオンを通す筒(イオンチャネルと呼びます)がたくさんあり、イオンはこの筒を通って濃度の高い方から低い方に流れようとします。しかし、イオンが流れ始めると、それを押し戻す電気的反発力も生じます。その二つが釣り合ったところでイオンの流れは見かけ上止まるため、神経細胞の膜の内と外ではそのイオンの濃度差に応じた電位差が生じるのです。
イオンチャネルは、通すイオンの種類が決まっていて、ナトリウムイオンはナトリウムチャネル、カリウムイオンはカリウムチャネルという別々の筒を通ります。神経細胞が活動していないときは、細胞膜はカリウムイオンが特に通りやすくなっている(カリウムチャネルが開いている)ため、細胞の中は外に対してマイナスの電位になっています。これは陽イオンであるカリウムイオンが細胞から外へ出て行きやすいので、細胞内全体でみると陽イオンが足らなくなって、細胞内がマイナスになるからです。
ところが、神経細胞が活動するときは、細胞膜にある多くのナトリウムチャネルが瞬間的に開き、陽イオンであるナトリウムイオンをたくさん通すようになります。ナトリウムイオンは細胞の外にたくさんあり、しかも細胞内はそれまでマイナスだったので、非常に多くのナトリウムイオンが細胞内に流れ込み、細胞内は外に対してプラスの電位に変化します。こうしたイオンの流れによって生まれた電気信号は「活動電位」と呼ばれ、それが細胞体から軸索を通り、その先端にあるシナプス終末部に向かって進んでいくわけです。

ニューロン


───イオンの流れによって活動電位を引き起こすわけなんですね! それで先端のシナプス終末部では、受け手のニューロンにどのようにして情報を受け渡すのですか。

軸索の終末部を拡大すると、シャワーの先端のような形をしています。軸索を通ってきた電気信号は、シャワーについている穴の1つ1つに送られます。そして、このシャワーの穴の先端のところで電気信号は「神経伝達物質」という化学物質に変えられて、受け手のニューロンに届けられるのです。

ニューロン


───その神経伝達物質にはどんなものがあるのですか。

皆さんはドーパミンという名前を聞いたことがあるかもしれませんね。そのほか、グルタミン酸、アセチルコリン、ノルアドレナリンなども神経伝達物質で、現在、数十種類が発見されています。
この神経伝達物質が受け手のニューロンの細胞膜にある受容体に結合します。受容体にもいろいろな種類がありますが、こうした受容体に伝達物質が結合すると、特定のイオンチャネルが開きます。イオンチャネルが開けば、前述のようなイオンの流れが生じ、それに応じた電気信号が生じて情報が伝達される仕組みになっているのです。
この動作を繰り返して、情報がニューロンを通じて次から次へと伝わっていくのです。

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