フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第8回 ニューロンの情報伝達の仕組みとは 科学技術振興機構ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト 黒谷 亨研究員インタビュー 基礎から応用への段階に入ってきた脳研究。

怒りや恐怖、喜びなどを対象にした情動情報研究

───現在どんな研究をされているのですか。

私たちのプロジェクトでは、「情動情報」という領域を研究対象としています。情動情報とは何かと一言でいうのはたいへんむずかしいのですが、情動とはある出来事が発生した時に、快く感じたり、不快に感じたりする心とからだの応答ということができるでしょう。他人とコミュニケーションをとる場合、必ずこの情動が伴い、コミュニケーションを上手にとるためにはこの情動情報が大切になってきます。
情動情報の基本には喜び、悲しみ、怒り、恐れ、驚き、嫌悪などがあり、そこから愛情、嫉妬、恥などの感情が派生してきます。
私は、こうした情動情報に関連する脳の領域について、電気生理学の手法からアプローチしようとしているんです。

───具体的にはどんなことを研究対象にしているんでしょう。

たとえば、比較的研究が進んでいるのが、恐怖の研究です。動物に恐怖という感情を与えると、脳の中のどんな部位が反応するのか、生きた動物の頭部に直接電極を差し込んで、調べています。恐怖の関係する部位は扁桃体ですが、その部位で神経細胞同士がどのように反応しあって恐怖を形成するのかがわかってきました。

───恐怖以外に、たとえば幸せとか、喜びとか、そうした情動についての研究は進んでいるのですか。

電極を差し込んで実験できるのは人間ではできなくて、動物になってしまう。そこでどうしても動物で実験しやすい恐怖の研究が中心になってしまうんです。たとえば、イヌが幸せそうにしているといっても、はたして犬が幸せという感情を持っているかはわからないですからね(笑)。

───そうした研究はどんな役に立つのですか。

恐怖に関係する脳の部位がわかれば、たとえば、何かの原因でトラウマを抱えてしまった人などのトラウマを解消する治療や手当ができるようになるのではないかと思います。実際、アメリカでは戦争を体験した人に対して、サイコセラピーによって戦争のトラウマを消すことが可能だとする研究が発表されています。
あるいはがんを患者さんに告知するとき、どうしたら、ショックを和らげることができるかなどにも応用できると考えられます。

───これからどんな研究をしようとしているのでしょう。

日本では心理学が大学の文学部に設置されている場合が多いためもあり、脳内機構の生命科学的な研究と心理学的なアプローチが、あまり結びついていない。私たちのプロジェクトでは、このあたりを結びつけたいと思っています。

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