フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第9回 ホルモン研究のこれから 埼玉大学大学院理工学研究科 坂井 貴文教授インタビュー 下垂体と消化管ホルモンの関係を研究し続けて

脳ばかりじゃない、消化管だってすごいんだ

───脳と消化管はどのように連携しているのですか。

普通、我々の意識には上らないのですが、消化管からは常に消化管の状態を知らせる信号、ああしろこうしろという注文の信号が脳に届けられています。それを味覚、嗅覚、視覚などの五感に対して第六感と言う人もいます。そして、胃や腸などの消化管が受け取った感覚が、抹消の神経を通じて脳に伝えられ、それに応答するため、今度は脳が消化管に信号を送り返すという仕組みになっています。
たとえば、グレリンは、空腹時に胃から分泌され、迷走神経を介して脳の視床下部に「空腹なので何か食べてよ」というシグナルを伝達します。それを受けて、視床下部でニューロペプチドY(NPY)が分泌され、食欲が出ます。同時に、脳は消化管へも働きかけて食べ物を受け入れられるようにします。

脳と消化管の連携
───消化管ホルモンと脳の研究をする意味はどんなところにあるのでしょう。

最近は脳研究がスポットライトを浴びていますよね。そして、一時期、「末梢は中枢の奴隷」なんてことも言われた。どういうことか、わかりやすく言うと、脳がからだの隅々の神経や器官を支配していて、「脳がひとりで考えて、からだのすべてを動かしているんだから、えらいんだぞ」というわけです。でも、私としては、「脳ばかりじゃないよ。脳はたしかに大変な仕事をするけれど、胃とか腸などの末梢の器官だってすごいんだ」という思いを持っていました。
それで、モチリンとグレリンの両方をテーマとして、消化管運動を中心とした、脳と胃腸などの消化管とを結びつける研究をしようと考えたんです。

───最近、力を入れている研究は?

特に力を入れているのは、これまで述べてきた「脳腸相関」の研究です。からだの中で最大の内分泌器官である消化管のホルモンがどのような仕組みで分泌されるのか? また、分泌されたホルモンがどのようにして消化管の運動や食べ物を摂取する量を調節しようとしているのか? などの研究に打ち込んでいます。
また、前からの続きで、全身の内分泌調整の要である下垂体に存在しているホルモンを生みだす細胞がどのように増殖して分化していくのか、下垂体と日周期の関係はどうなっているのか、そもそも下垂体はどうやってできてくるのかなども研究しています。
埼玉大学には「脳科学融合研究センター」と「バイオホメオスタシス研究センター」がありますが、私もこれらの研究センターのメンバーになっていて、他の先生方と協力しながら、からだの生理機能を一定に保つホメオスタシス(恒常性)の機能を司る器官がどのように発生し、発達しているのか、また、恒常性を維持しているのか、という研究を進めています。こうした研究を通じて、哺乳類を中心とした動物たちの生命現象を明らかにできたらなと考えています。

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