フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第9回 ホルモン研究のこれから 埼玉大学大学院理工学研究科 坂井 貴文教授インタビュー 下垂体と消化管ホルモンの関係を研究し続けて

失敗にめげないタフな精神力をもってほしい

───これからホルモンの研究はどのように進むのでしょうか。

少し前までは、ホルモン研究というと血流に放出される物質を中心に行われきましたが、これからはホルモンは、からだ中にシグナル(信号)を送る情報伝達物質と考えることが大事だと思います。そのように考えると、多数の信号が生体の中でダイナミックに行きかうイメージが持てます。
加えて、これまでお話ししてきたように、これらの信号はからだの中でお互いに影響しあって作用しています。全体の仕組みを知るためには、一つのホルモンだけを研究してもダメです。全体のふるまいを理解するためにはシステムバイオロジーのアプローチが欠かせません。こうなると、一人の研究者の能力を越えていて、数学や工学の力を借りて生物を理解するなど、よりいっそう、学際的な研究が求められると思いますね。
また、今までは、新しいホルモンの発見は病気やさまざまなからだの状態から存在が予想された物質を探すことからなされてきました。しかし、近年では、ゲノム解析や微量試料の精製や同定ができるようになったことから、生体物質が先に見つかることが多くなりました。そうすると、新たに得られた物質の働きを調べることが非常に重要になるので、生理学や形態学的な研究アプローチが今後ますます重要になると思います。

───中高校生へメッセージをお願いします。

生物学はまだ分からないことが多く、研究のフロンティアが残っている学問領域といえます。細胞一つを解明するのも大変な仕事ですが、その細胞が集まった組織になるとさらに研究は大変になります。いや、組織が集合した器官の研究はさらにやっかいだし、器官が集まった生体を理解するとなるとさらに大仕事です。こうして考えてみただけでも、生物の世界は研究対象としての魅力にあふれているではありませんか。

───では、どのような勉強をしておけばよいでしょう。

いまお話ししたように、研究の方向性はいっそう学際的になってくるので、さまざまな知識が求められます。よく聞く話なのですが、生物を専攻する学生さんは、物理や数学が苦手と思っている人が多く、最初からわからないと自分で決めつけてしまっているように思います。でも、最近は測定の機械や技術がどんどん複雑になってきていて、それを理解するには電気や力学の知識も必要になります。また、前にお話ししたように、数学的な考え方もこれから必要になりますよ。
したがって、中高校生のころから、いろいろな分野の知識を身につけておいてほしいな。生物学だけでなく、物理、化学、数学などをおろそかにせず勉強しておいてください。

───生物学の研究者になる上での心構えは?

生物学を研究していると、失敗の連続です。良い結果を得るためには忍耐強く実験を繰り返さなければなりません。失敗にめげず、忍耐強く実験を重ねられるタフな精神力を持ってほしいですね。

(2010年11月16日取材 2011年1月公開)

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