フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第14回骨髄幹細胞による治療のメリットは? 札幌医科大学 医学部附属フロンティア医学研究所 本望 修教授インタビュー

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第14回 骨髄幹細胞で脳梗塞を治療

脳梗塞や難治性の病気に役立つ研究を続けたい

札幌医科大学 医学部附属フロンティア医学研究所
本望修教授 インタビュー

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本望 修(ほんもう・おさむ)
1964年生まれ。1989年札幌医科大学医学部卒業後、同大学医学部 脳神経外科に入局。1991年ニューヨーク大学 脳神経外科 研究員、1992年イエール大学神経内科 神経科学・神経再生研究所 研究員、1995年同講師を経て、1995年に札幌医科大学医学部 脳神経外科に戻り、助手、講師を経て、2008年札幌医科大学神経再生医学講座特任教授。現在、札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所神経再生医療学部門教授。

本望先生は、脳梗塞患者自身の骨髄の幹細胞を使った脳梗塞の治療法を研究している。まだ研究の段階だが、実際に患者さんの運動機能障害や失語症が改善されたとして、今後の臨床応用への期待は大きい。先生がこの研究に取り組んだきっかけ、骨髄の幹細胞の果たす役割などをうかがった。

骨髄の幹細胞が神経細胞の再生に有効であることを発見

───本望先生が、今の研究をされるようになったいきさつをお聞かせください。

私は、1990年代の初めに米国のイエール大学でニューロサイエンス(神経科学)を研究しはじめました。当時米国では、培養細胞を使った分子生物学的手法によって、ニューロサイエンスが大きく進展した時期でした。
私はその恩恵にあずかって、神経再生や神経系の病気を治療する研究をしようと考えたのです。神経系の細胞や幹細胞の培養は当時とても難しい技術だったのですが、培養技術が発達したおかげで、新しい可能性が開かれたと感じていました。
最初、ラットの末梢神経にあるシュワン細胞を培養して、脊髄の病気を起こしたラットに移植する研究をしました。そうしたところ治療効果が出たので、培養した細胞を移植すれば神経の病気に効くかもしれないと考えたのが、今の研究に取り組むきっかけです。

───神経細胞の移植から、骨髄の幹細胞に目を向けるようになったのはどうしてですか。

その後、神経幹細胞やES細胞などいろいろな細胞を使って神経再生の研究を行いましたが、ずっと研究を続けていくうちに、実験室での研究であればともかく、実際の治療に使うとなると、神経細胞を使った再生医療はまだまだ難しいと考えるようになったのです。
何かほかの細胞で代用できないかと研究するうちに、骨髄の細胞の中に神経の再生を促進するものがあることがわかってきました。それが骨髄の間葉系幹細胞だったのです。

───骨髄の間葉系幹細胞はどんな細胞ですか?

骨髄は血液をつくる場所ですが、ここには血液をつくる造血幹細胞、赤血球、白血球、血小板などがあり、その一つに間葉系幹細胞という細胞があります。この幹細胞は、内臓、血管、骨、軟骨、筋肉、さらには神経などに分化できる性質を持っているのです。神経にも分化できることから、この間葉系幹細胞を使えば、脳梗塞などの患者さんの治療に役立つのではないかと考えたわけです。
もっとも、最初から間葉系幹細胞が神経細胞の再生に使えると考えていたというより、骨髄にある細胞の中に何か神経再生に効果があるものがあるに違いないと手探りでやっていった。そうしたら神経再生の治療に効果のある細胞があった。それはなんだろうと研究を重ねていったら、それが間葉系幹細胞だったというのが正しい言い方ではないかと思います。
実際、私たちは骨髄の中にあるさまざまな細胞を使って、どんな治療効果があるか一つひとつ試してみたのです。脳梗塞で運動麻痺が残り動けなくなったネズミにある細胞を入れたところ、2週間後に元気に走り回れるようになった。それが間葉系幹細胞だったのです。

───研究を始めた当初は間葉系幹細胞の働きが明確にわかっていたわけではないということですか。

そう。今でこそ、生命科学分野の学者、研究者の間で「間葉系細胞」が注目されていますが、その当時、間葉系細胞に関する知見はさほどなかったのです。最近になってようやく、神経以外にも、肝臓や腸などの再生にも効果があることが次第にわかってきたのです。
とにかく、こうして、骨髄の間葉系幹細胞を使った神経の再生治療にたどり着いたのです。

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