フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第14回骨髄幹細胞による治療のメリットは? 札幌医科大学 医学部附属フロンティア医学研究所 本望 修教授インタビュー

自然治癒力の後押しをする治療法

───骨髄の間葉系幹細胞を身体に入れると、どんな作用をするのか、少し詳しく教えてください。

「森の教室」でもお話ししましたが、この幹細胞は普段から血流に乗って体中を巡っていて、骨や臓器や神経など身体の中の傷ついた部位を修復する働きをしています。皮膚がちょっと傷ついたときにも、この幹細胞が血流に乗ってやってきて治してくれるというわけです。
ヒトにはとくに手当てをしなくても自然に自分の身体を治す自然治癒力が備わっていますが、骨髄の幹細胞はこの自然治癒力に関係しているのです。そういう意味では、「再生医療」というよりも修復力による「細胞治療」だといった方が適切かもしれません。

───実際に脳梗塞の患者さんに静脈投与する手順は?

まず、患者さんの腸骨から骨髄を20~30CC取り出します。この骨髄から間葉系幹細胞を分離して、それを1万倍近く増殖培養してから点滴を打つ要領で腕から静脈注射します。脳梗塞のような重大な病気を治すためには、普段の骨髄幹細胞の数では足りないので、数を大幅に増やして脳梗塞を起こした部位に働きかけるのです。

───脳の患部にたどり着いた幹細胞は、どんな働きをするのでしょう。

骨髄幹細胞は、弱った神経細胞のあたりにやってくると、神経細胞を元気にする神経栄養因子という物質を出します。それから骨髄幹細胞は、血管新生因子という物質を出して、新しい血管をつくり出し、酸素や栄養を補給して神経細胞を再生させるのです。

───幹細胞を大量に投与するとのことですが、がん化する心配などはないのでしょうか?

ここで重要なのは、骨髄の幹細胞というのは、体性幹細胞であるという点です。この体性幹細胞はだれにでも備わっているものであり、普段からわれわれの身体の中の他の細胞とコミュニケーションをとっているのです。このため暴走して分裂したりしないようにコントロールされています。したがって、拒絶反応やがん化する心配がありません。これはこれからの再生医療を考える上でとても重要なことだと考えています。
骨髄幹細胞の有利な点はもう一つあります。これまでは脳梗塞になって1カ月半も経った場合、その患者さんの神経細胞はほとんど死んでしまって再生するのは難しいというのが医学的な常識になっていました。しかし、骨髄幹細胞による治験では、1カ月半を過ぎてからの治療であっても効果があることがわかってきました。これもこれまでの医学的な常識を破る画期的なことだと思います。

───これからの課題は?

いまより大規模な臨床治験に向けた準備をしていますが、さらに研究を重ねて、できるだけ早くどこの病院でも脳梗塞の患者さんを治療できるようにしたい。それが医師であり、研究者である私の責任だと考えているんですよ。

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