フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第15回滑膜幹細胞を使った膝軟骨再生 東京医科歯科大学 軟骨再生学 関矢一郎教授インタビュー

これまでの治療法を乗り越えて

───関節軟骨が損傷した場合、これまでの治療法にはどんなものがあるのですか。

まず「骨髄刺激」という方法があります。骨髄には軟骨になる前の細胞(前駆細胞)があるので、軟骨損傷付近の骨に小さな穴をあけて骨髄から出血させ、この前駆細胞を欠損部に誘導して、軟骨に分化することを期待するものです。
けれども、本来関節軟骨は硝子軟骨というものですが、この治療法でできるのは線維軟骨であり、長い時間がたつと軟骨が変性してしまうという欠点を持っているのです。ただ、お金もそれほどかからず、どこの病院でも治療を受けられ、比較的身体にやさしい治療(低侵襲治療)というメリットはあります。
次に「骨軟骨柱移植」があります。これは、膝の中でも比較的重要性の低い場所にある軟骨を取ってきて、それを損傷した軟骨に移植するという治療法です。この治療法では正常な軟骨を犠牲にしなければならないこと、広い範囲の損傷には対応しきれないという問題もあります。
そして「軟骨細胞移植」があります。これは、正常な軟骨を採取して酵素処理をして体外で細胞を増やします。増えた細胞とゲルを混ぜてゼリー状の培養軟骨をつくり、これを欠損した軟骨の部分に移植する治療法です。
ただし、軟骨の細胞を増やすには限界があること、関節を開く手術をするので、患者さんの身体に負担がかかるという問題が指摘されています。

───滑膜を使った軟骨再生治療は、こうしたこれまでの治療法の問題点を克服しようというものなんですね。先生が治療に使われる滑膜は、もともとどんな性質を持った組織なんですか。

滑膜は関節の内側を裏打ちする膜です。滑膜に関する研究を重ね、滑膜は、幹細胞を貯蔵し、関節の中の組織を修復させる機能を持っていると、私たちは考えています。じん帯や軟骨、半月板などが損傷すると滑膜にある間葉系幹細胞が関節液中に動員されて、損傷部位に接着して組織修復に貢献するのです。ただ、動員される間葉系幹細胞の数は限られているので、大きく損傷した場合などは、自然に治るのには限界があるのです。そこで、滑膜由来の間葉系幹細胞を培養して数を増やし、損傷部に移植して治療するというのが、再生医学を使った私たちの治療法なのです。
そういう意味では、非常に理にかなった無理のない治療法ということができるでしょう。

───滑膜を使った軟骨再生治療では、どんな患者さんに最も治療効果が高いのでしょう。

いちばん治りやすいのは、大腿骨側の軟骨は欠損しているけれど、脛骨の軟骨や半月板には問題がない患者さんです。しかし、多くの場合、半月板や脛骨が痛んでいる場合が多く、現状ではすべての患者さんに対応できないという問題があります。そのためもあって、私たちは滑膜を使った半月板の再生医療の研究を進めているところなのです。

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