フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第20回 iPS細胞から血小板をつくる 京都大学iPS細胞研究所臨床応用部門 江藤浩之教授インタビュー

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第20回 iPS細胞から血小板をつくる

「できない」という言葉は封印。試行錯誤を繰り返しながらポジティブに研究を続ける。

京都大学 iPS細胞研究所臨床応用部門
江藤浩之教授 インタビュー

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江藤 浩之(えとう・こうじ)
1990年山梨医科大学医学部(現山梨大学医学部)医学科卒業。同年国家公務員共済組合連合会虎の門病院 内科レジデント。1996年帝京大学医学部内科循環器グループ助手、99年米国Scripps研究所博士研究員。2003年同研究所上級博士研究員。同年東京大学医科学研究所 幹細胞治療分野助教。09年 同研究所幹細胞治療研究センターステムセルバンク特任准教授を経て、2011年11月京都大学iPS細胞研究所臨床応用部門教授に就任。

山中伸弥教授のノーベル賞受賞で、iPS細胞は多くの人が知るようになった。iPS細胞は、からだのどんな部位の細胞にもなれるものだけに、将来的にはさまざまな病気の治療が可能になると期待されている。今回は、iPS細胞から血液の血小板をつくる研究を進めている京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授に、研究の現状や展望を伺った。

循環器医師として血小板に興味を持つ

───江藤先生が血小板に関心を持ったのはどんなことからですか。

私は研究者になる前は循環器内科の医師で、心臓病などの治療を専門にしていました。
脳梗塞や心筋梗塞など循環器系の病気は、血液が血管の中で固まって起きる病気で、その原因になるのは血小板の血液凝固作用です。したがって、血小板は循環器の医師にとって悪者だったんです(笑)。
しかし、循環器系の病気にとっては悪者である血小板も、ケガをして出血したりしたときには出血を止める働きをする。なぜ、こうした二面性をもっているのかなどを知りたくなって、米国Scripps研究所に留学し、血小板の生物学を始めました。ここではマウスのES細胞から巨核球や血小板をつくる研究をしていて、そうした技術はこの研究所で身につけたものです。
日本に帰ってきてから幹細胞研究で知られる東京大学医科学研究所の中内啓光教授のラボで、先生のご指導の下で造血幹細胞の研究をするようになりました。研究を続けるうちに、ヒトのES細胞から血小板をつくることによって、再生医療への道が開けるのではないかと考えるようになったのです。しかし、マウスと違って、ヒトのES細胞から血小板をつくるのは、難しい作業でした。

───ES細胞から血小板をつくるのに、マウスとヒトでは、そんなに違いがあるのですか。

これはもう、大きく違います。マウスの方法ではヒトの血小板はなかなかつくれませんでした。ヒトのほうが増殖スピードは遅いし、ちょっとしたことでダメになってしまう。なぜかというと、ES細胞は胚から作るので、言ってみれば生命の発生の段階のものですね。ヒトの場合は胚の段階で何か異常がないか、厳しくチェックされるようにプログラムされているのだと思います。ヒトの方が圧倒的に繊細なんですね。
そうした難しさはあったとしても、ヒトES細胞など多能性幹細胞から血小板などの血液をつくることができれば、将来の輸血医療に役立つと考えて取り組みました。

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