フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第20回 iPS細胞から血小板をつくる 京都大学iPS細胞研究所臨床応用部門 江藤浩之教授インタビュー

効率的に血小板をつくるプログラムを探る

───帰国後、本格的に多能性幹細胞から血小板をつくる研究を進めていったわけですね。

ええ、しかし、「森の教室」でもお話ししたように、血小板を生み出す巨核球は骨髄の中にわずか0.05%しか含まれていないため、つくりだすのが大変難しかった。私たちは、わずかな巨核球からどのようにしたら血小板をつくりだせるかを研究し、血小板を生み出す巨核球の割合が低いのなら、その割合を高めるように誘導すれば、効率よく血小板をつくれるのではないかと考えました。
たとえば、血液のがんともいわれる白血病は、通常よりも骨髄の中の白血球の数が増えすぎることによって起きる病気です。通常は血液1マイクロリットル中に白血球は5000~6000個くらいですが、風邪などをひいた時には、白血球が病原体をやっつけるために1万個くらいに増えることがあります。しかし、風邪などで増えるとしても、通常は1万個を超えないようにプログラムされています。それが5万個以上にもなると異常事態で、白血病などの病気が疑われることになりますが、私たちの研究は、ある意味では白血病と同じような状態を人為的につくりだし、血小板のもとになる巨核球を増加させようとしたのです。

───そうした状態をつくりだすためにどんなことをしたのでしょう。

私たちのからだは、受精卵から分化していって皮膚や神経、腎臓や肝臓などの臓器、血液などができてきます。そうして分化する際は、成長因子がそれぞれのタイミングで働きかけて皮膚なら皮膚、血液なら血液になるような環境がつくられていきます。
そこで、受精卵から血小板がつくられるまでの培養のプロセスの中で、結果的に血小板が増えるように成長因子などをいれていったのです。
たとえば、「森の教室」でもお話ししたように、血液は中胚葉から分化しますが、中胚葉は血液のほかにも心臓や血管などにも分化します。そこで、中胚葉の段階で多くのものが血液細胞に分化するように誘導してやろうと考えたわけです。
具体的には、血管や血液に分化するSac(サック)という構造体を培養することに成功しました。そして、この構造体の内側にある細胞群が血液に分化しやすいことを解明し、この細胞群を取り出して造血性のサイトカインなどの成長因子を加えて培養を続けた結果、血小板のもとになる巨核球がつくられ、続いて血小板がちぎれるように放出されました。
放出された血小板を電子顕微鏡で観察すると、血小板の細胞の内部構造が通常の血小板と同じであることも判明し、この方法でES細胞やiPS細胞から血小板をつくることができることが証明されたんです。

iPS細胞から誘導された血小板

iPS細胞から誘導された血小板

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