フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

細胞シート工場をつくり多くの患者さんに提供したい

───細胞シートをつくる際の難しさはどんなところにあるのですか。

細胞シートは、「森の教室」でもお話ししたように、温度応答性培養皿を使ってつくるわけですが、その際、細胞と細胞がきっちり手を結んだジャンクションを形成させることが重要なポイントになります。細胞同士がしっかり手を結んでいないと、細胞がバラバラになってしまうから。

細胞シート

細胞シート

培養皿から細胞シートをはがすときには、培養皿の温度を32℃以下に下げて取り出すのですがこれが結構難しい。学生や研究者はこの研究所で1カ月くらい細胞シートづくりに挑戦するのだけれど、うまくできない人もいるんですよ(笑)。うちの研究者たちは「細胞シートはがしは、一輪車に乗るようなもの。訓練しなければ乗れるようにならない」と言っています。いまは海外からも細胞シートの研究に何人もの研究者がやってくるので、そういう研究者にもノウハウを伝えて、世界に広めようとしているところなのです。

───細胞シートづくりにあたって、そうしたテクニックや清浄度を保ったラボが必要となると、実際に大勢の患者さんの治療に使えるようになるのでしょうか。

現在、角膜治療のための一人分の細胞シートをつくるのに2週間かかります。この研究所の細胞培養施設(CPC)は5室ですから、フル稼働して月に10人分ぐらいしか作製できません。これでは治してあげられる患者さんの数も限られてしまいます。

そこでいま私が考えているのは、各病院に細胞シートづくりの拠点をつくるのではなく、細胞シートをつくる工場を一カ所つくっておいて、そこに患者さん本人の細胞が送られてくると、手術日には細胞シートになって、手術する病院に届けるようなシステムです。そのためには、細胞培養自動化システムを備えた工場をつくり産業化するような、産業界との連携も必要になってきます。こうした施設ができれば、細胞シートによる治療費が安くなり、大勢の患者さんが最先端の医療の恩恵を受けられるようになるはずです。そのためにも国が21世紀の医療の戦略を立て、研究費を出して新しい医療を研究できる機関や施設をもっとつくるべきでしょうね。

アメリカでは3兆円もの巨額な研究開発費を投入し、研究の成果を産業化して新しい技術や商品を開発し、それを輸出して外貨を稼いでいます。日本ではこうした産業界との連携が遅れていて、よい技術の芽がたくさんあるにもかかわらず、アメリカとは逆に新たな技術や商品を海外から買うしかないわけです。日本も最先端医療の研究費や産業に投資して、この国でしかできない創造性に富んだ高度な医療技術を開発し、その成果を外国に輸出するようなシステムを構築すべきです。そうして外貨を獲得して患者さんに還元すれば、医療費だってもっと安くなると思いますよ。また再生医療による根本治療が進めば、いま対症療法で必要となっている薬剤費が削減できるはずです。

細胞培養施設(CPC)

細胞培養施設(CPC)

TWInsの臓器ファクトリー

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