フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

安定志向を捨て、社会に貢献できる道を探そう

───これから医療分野に携わる人にはどんな資質が求められるのでしょう。

これまでの学問や研究にとらわれない新しい発想で、新しいアプローチ方法を探す力が大切でしょう。これまでにないルートを切り開くためには、激しい流れの川も渡らなければならないし、たくさんの困難に直面することもあるでしょうが、それに負けないで頑張れる人が必要だと思います。

この研究所では工学部の機械科の学生が心臓関係の新しいデバイスを開発したり、応用化学科の学生が医学の論文を書いて、ハーバード大学に迎えられたりしています。こうした新しいタイプの研究者が次の時代の医療を担っていくのではないでしょうか。 そのためにも、中学校、高校の理科の先生方が、ただ知識を詰め込むというのではなく、クリエイティブな人間を育てる授業をしてほしいと思います。

───先生はそうした魅力ある先生に小さな頃出会った経験がありますか。

小学校高学年のときの理科の先生がとても熱心で良い先生で、理科への興味を引き出してくれました。学校の科学クラブで、試験管の中にハマグリを入れて何℃で口をあけるか、どうしてその温度で口を開けるのかなど、タンパク質の変性などと関係づけて調べていました(笑)。また近くの科学センターで土曜の午後や日曜に開かれる科学の実験教室に通った思い出もあります。

中学校の理科の先生からは科学の考え方のおもしろさを教わりました。そうそう、中学生のときには、家から電車で40分ぐらいのところにある水元公園という大きな公園に通って、池の中のオニバスや浮遊植物と川の流れや土壌の関係などを調べて発表し、科学の研究部門で総理大臣賞をもらったことがありました。

───最後に、中高校生にメッセージがありましたら。

最近の若い人はどうも安定志向が強いように見受けられます。いまの時代、安定した企業や職場などそうそうありません。そういう発想より、自分がこの世の中でどうしたら社会に貢献できるのか、どういう人間になることが必要なのかを考えてほしい。

私は学生たちに日ごろから、楽をしていい暮らしをするのがカッコイイのではない、若いときに泥にまみれて努力して社会貢献できる道を切り開いていくことがカッコイイのだ、価値があるのだと言っています。

なぜ、若い人が安定志向になるのか、それは夢をもてるような環境がないからかなと思います。サイエンスにはその意味では、大きな目標や夢が持てる要素がいっぱい詰まっています。

たとえば医学はこの100年間で大きく進歩してきました。でも、今から振り返れば100年前はまだ、点数にすれば50点にも届かないでしょう。でもその50点に満足せず、さらに上の点数、70点、80点をめざして医者や研究者ががんばってきたから今の医療があるわけです。でも、今100点だからとここで満足してしまってはだめなんです。そのさらに上をめざして努力することが大切です。
若い人には、新しい未来を夢みて、いま未開拓な分野に挑戦してほしいですね。

(2013年3月29日取材)

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