フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

人にやさしいBMIが日本の特徴

───BMIをリハビリテーションに取り入れようという動きはいつごろから出てきたのですか。

私自身は以前から取り組んでいたのですが、2008年に文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムがスタートし、その中で「BMIとリハビリテ―ション」の研究に予算がつけられ、本格的に研究が進みました。慶應義塾大学病院でも2008年からBMIリハビリテーションを試験的に使い始め、患者さんの協力を得ながら進めています。

───日本のBMIの特徴はどんなところにありますか。

BMIでは脳の電気信号を捉える必要があります。欧米では脳に電極を留置する侵襲度の高い方法が採用される場合も多いのですが、日本では、頭皮の表面に電極を置いて脳信号を捉えるEEG(脳波計)や、筒状の大型装置に入って脳の血流の変化を測定、その変化から脳活動を捉えるfMRI(機能的MRI)など、低侵襲の方法が主流となっています。
EEGの場合は、脳信号の発生する場所から頭がい骨を隔てた遠いところで信号を捉えるので、よりきれいな信号をとるような技術が求められるのですが、日本はそうした先端的な技術も開発されており、より低侵襲なリハビリ技術の研究が進められています。

───BMIリハビリテーションで、「セカンドライフ」のキャラクターを使いましたが、その理由を聞かせてください。

何か特別なリハビリ装置ではなく、普通の人が普通に使えることが大切だと考えました。一般に普及しているものを多くの人が使えるようにしたいというので、ゲームのように楽しみながらリハビリもできる「セカンドライフ」を採用したのです。
もちろんBMIでは、バーチャルな世界ではなく、脳でイメージするだけで現実の車いすを動かすこともできます。ただ、90%正確に動かすことができても、10%誤作動を起こす可能性があるとすると、実際に患者さんが乗った車いすは動かせません。100%の正確さが要求されるのです。
これに対して、バーチャルな世界では、患者さんにはまったくリスクがありません。画面上でいくら失敗しても再チャレンジすることができます。バーチャルな世界を楽しみ、そこで知らない人とコミュニケーションができ、しかも安全というところから、「セカンドライフ」上でのリハビリを選んだのです。

───BMI リハビリテーションでは、自分が出す脳波を画像で見ながらトレーニングしています。こうしたトレーニング方法のメリットはどこにあるのでしょう?

これは、アメリカの心理学者が開発した「ニューロフィードバック」という方法で、能力開発や子どもの発達障害の治療などでも注目されています。被験者が自分の脳波の活動をモニターし、もっともよい行動ができた脳波を知り、その最適な脳波に近づけるように自分でコントロールすることによって、ADHDなどの落ち着きのない症状や発達障害などの改善につながる可能性があるとされています。
「BMIリハビリテーション」でも被験者が自分の脳波活動のパターンをリアルに把握し、脳にフィードバックするこの方法が有効です。完全麻痺の人が指を動かそうとしても当初はなかなかうまくいきませんでした。けれども、自分がうまくできたときの脳波を理解し、その脳波を出すようにモニターを見ながらトレーニングを行っていくと、次第に筋電図に成果が表れるようになっていくのです。すると脳はできたことに喜びを感じ、さらにトレーニングに積極的になる。これを繰り返していくと、指を動かすための脳内の回路が強固につくられるようになって、重度の上肢麻痺の方でも成果が出るようになりました。

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