フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

血液細胞の分化の定説に新しい見解を打ち出す

───河本先生は、これまで定説になっていた血液細胞の分化に、新しい見解をもたらしたと聞いています。どんな研究なのか、分かりやすく説明してください。

血液細胞には、赤血球や血小板、顆粒球・マクロファージなどの食細胞、Bリンパ球(B細胞)、Tリンパ球(T細胞)のリンパ球があります。このうち、顆粒球やマクロファージなどはミエロイド系(骨髄系)細胞とも呼ばれています。
1970年代の後半になって、こうした血液細胞のすべては骨髄中の造血幹細胞からつくられることが分かったのですが、これまで考えられてきた血液細胞の分化モデルでは、Tリンパ球、Bリンパ球は、細胞の形や免疫反応の仕方が似ているので、「兄弟関係」にあるとされてきたのです。そして、兄弟関係にあるのだから同じ前駆細胞から分化するものと考えられ、教科書に載っているような血液細胞の分化モデルがつくられました。

図1.従来のモデル

けれども、私はほんとうにTリンパ球とBリンパ球は兄弟関係にあるのかを調べ直してみたいと考えました。

───どんなふうに研究していったのですか。

私は、大学院を修了後、京都大学胸部疾患研究所(現 再生医科学研究所)の桂義元教授のもとでリンパ球の初期分化の研究を手掛けるようになりました。そこで、桂先生とともに、造血前駆細胞が、Tリンパ球、Bリンパ球、そしてミエロイド系細胞の3つの系列にどう分化していくかを同時に調べることができる手法を開発したのです。
この手法で造血前駆細胞を材料にして、その分化過程をしらみつぶしに調べていったところ、造血幹細胞は、ミエロイド系、赤血球系の前駆細胞、リンパ系前駆細胞の2つの前駆細胞に分かれるのではなく、実は顆粒球やマクロファージなどのミエロイド系の細胞がすべての細胞の基本型となっていて、Tリンパ球、Bリンパ球、赤血球に分化するその途中まで、ミエロイド系の細胞をつくる能力が保たれていることが分かったのです。
もし、これまでの定説のようにミエロイド・赤血球系の前駆細胞と、リンパ系前駆細胞が2つの系統に分かれているなら、こうした能力が保たれているわけがないのです。また、Tリンパ球、Bリンパ球の両者だけをつくる血液前駆細胞は存在しないことも分かり、Tリンパ球とBリンパ球は兄弟関係にはなかったということも証明されました。

図2.新しいモデル(ミエロイド基本型モデル)
───血液細胞の分化についての新しい研究成果はどんな意味を持っているのですか。

これまでの定説を覆しただけではなく、白血病の病態の理解やリンパ球を使った再生医療にもつながっていくものと考えています。

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