フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

若い人たちも、脳と運動の研究に進んでほしい

───高校生が運動と脳について学びたいと考えたとき、どういう学問分野から入っていったらよいのでしょう。

私自身は教育心理学からこの分野に入っていますし、いろいろな入り方があると思いますよ。実際には、まだ運動と脳についての研究領域は定まっていないというのが本当のところでしょう。脳と身体の研究でいうと、スポーツに特化した神経科学は確立しておらず、リハビリテーションなど医療分野が先行している状態です。運動・スポーツと脳に関してはまだ本格的な研究が始まったばかりですし、研究している大学・研究機関も少ないと思います。
ただ、先にお話ししたように、子どもの運動能力プログラムの開発については、元サッカー日本代表監督が興味を示してくれたり、患者さんのリハビリだけではなく健康な高齢者支援のための脳と運動についての研究が始められるなど、機運が高まってきているのではないでしょうか。
私自身は、まず脳と運動・スポーツについて、いきなり応用研究を進めるのではなく、基礎研究をしっかり固めたいと考えていました。ようやく基礎的な研究も多少は進んできたので、どうしたらスポーツが上手になるかなど、実践的な応用分野にも手を伸ばしたいのですが、何しろ身体が一つなので両方できないのが悩みです(笑)。若い人が脳と運動分野に興味を持って研究してくれたらうれしいですね。

───スポーツをする若い人へのメッセージがありますか。

大事なのは考えること。自分の中で試行錯誤することが大切だと思います。
たとえば、ハンマー投げの世界的なアスリートにうかがったことがあるのですが、彼はパフォーマンスが落ちてきたときに、赤ちゃんのハイハイの動きを取り入れるなどの工夫をしたといいます。ですからみなさんも、1日何回素振りをやりなさいと言われたときなども、ただ素振りをするのではなく、片目を閉じてやるとか、重りをつけてやるとか、こうして素振りをすると効果があると自分で工夫しながらやれば成果の出方が違うのではないでしょうか。
私たちの実験データから、効果的な練習方法やトレーニング方法を、ある程度示唆することは可能ですが、すべての人にうまく当てはまるとは言い切れないのが現状です。ですから、まずは自ら試行錯誤を重ねて、自分なりに伸びる方法を導き出してほしいですね。
そしてイメージトレーニングにしても、できるだけ科学的に根拠のあるトレーニング法を取り入れることが大切だと思います。

(2015年7月27日取材)

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