この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第1回 いつか生命を創り出して、いのちの不思議を理解してみたい 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 大和 雅之 教授

大学4年で取り組んだコラーゲンの研究が、細胞シート研究のルーツ

───卒業研究ではどんなことに取り組んだのですか?

コラーゲンの研究です。コラーゲンは、真皮(表皮と皮下組織の間にある層)や靱帯(じんたい)、骨、軟骨などをつくっているタンパク質のひとつですが、当時、このコラーゲンを利用して人工的に真皮や血管をつくる研究がアメリカで進んでいました。この研究と同じようなことを研究室でやったわけ。この研究が、いまの細胞シートや再生医療研究につながっていると言えるでしょうね。

───研究を始めた当時、コラーゲン研究の分野は将来有望だと考えていたんですか。

いやいや。むしろ、当時は同じ生化学でもDNAや細胞情報伝達に人気があって、コラーゲンの研究なんて主流じゃなかった。ところが、研究室の先生がへそ曲がりで(笑)。いま人気のある研究テーマは、そのうち落ち目になってしまう。そんなものより、日本では当時どこもやっていなかった研究をやろうと。私もへそ曲がり的に「やろう、やろう」と思ったわけね(笑)。

───その細胞シートって、どんなものなんですか。できるだけ、私たちにもわかるように説明してください。

うーん、それって難しいなあ(笑)。
わたしたちのからだの一部が傷ついたり、失われたりしたとき、その部位を復元して機能を回復させる医療を“再生医療”といいます。細胞シートは、傷ついたり、失われた細胞を復元したり、元気にしてやるシートなんだ。
ほら、肩こりなどの筋肉痛になったときに、ペタッと貼り付ける湿布薬があるでしょ。あれが細胞でできていると思ってください。湿布薬と違うのは、湿布薬は時間がたつと効力が落ちて貼りかえなければならないけど、細胞シートは生きているので貼りかえる必要がないってこと。
それと、すごく薄い。特殊な高分子を厚さ20nm(ナノメートル)~30nmの厚さに敷き詰めた培養皿の上に細胞をまいてシートをつくるんですが、この培養皿を仮に野球場の大きさ(100m位)に拡大したとしても、この高分子の層の厚みは髪の毛1本の太さ程度、細胞シートの厚みは1cm程度です。

───先生が研究されていたコラーゲンは、細胞シートの研究にどんなふうに役立っているのですか。これも私たちに理解できるように……。

ますます、難問だね(笑)。
えーと、生き物のからだは細胞でできているけれど、すべて細胞でできているわけではなく、細胞と細胞を接着させるつなぎとか足場のようなものも必要です。そうした細胞の外を構成しているものを「細胞外マトリックス」といって、コラーゲンは細胞外マトリックスを構成している重要なタンパク質なんです。コラーゲンの研究は細胞の外側の研究だと考えてください。
これまでは、細胞の内側を徹底的に研究していけば細胞のことはすべてわかると考えられていたんだけど、最近では、細胞外マトリックスのような、細胞の外側の研究や、外側と内側がどんな関係で成り立っているのかを考えることが大切だということがわかってきたんだね。
細胞シートっていうと、細胞そのものが働いて傷ついた部位を元気にするイメージがあるじゃない。でも、そうではなくて、細胞シートは、傷ついた細胞が元気になるために必要なタンパク質を細胞の外側に分泌しているんだ。分泌されるタンパク質には細胞外マトリックスを作るタンパク質もあれば、ホルモンのようなタンパク質もある。このホルモンのようなタンパク質はみかんやぶどう、桃などの果物の木に実がなるように、細胞外マトリックスにぶら下がってるんです。わかるかなあ。

細胞シートの研究

特殊な高分子の培養皿を使って細胞シートを作製する。細胞が互いに連結する密度で培養し、細胞同士の結合がくずれないようにはがして心臓などに移植することによって、移植先で新しい細胞が構築される。

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