マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第2話 培養肉
調査のまとめドッキンレポート
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培養肉が注目されている理由とは
最近、培養肉や代替肉のニュースをよく目にする。理由はいくつかあるけれど、第一に挙げられるのは、世界の人口が2050年に97億人に達し、たんぱく源や穀物が不足するといわれているからドキ。
また、牛をはじめとする家畜の飼育には大量の水や穀物が必要で、人に必要な水や食べ物と競合しちゃう。さらに、牧草地を広げることは森林破壊につながりかねず、牛の出すゲップには地球温暖化の原因となるメタンガスがたくさん含まれている。環境のことを考えても、家畜に頼らない肉が求められているってわけドッキ。
代替肉として昔からあるのは、大豆などの穀物を原料に、肉のような食感と風味とする加工を施した植物由来の肉だけど、もっか“未来の肉”として大注目されているのが、牛や鶏、魚から細胞を採取して、それを大量に増やして成形した「培養肉」ドキ。
培養肉の生産で重要なのが、再生医療でも活躍している「ティッシュエンジニアリング(Tissue Engineering:組織工学)」の技術なんだって。どういうこと?
生きた牛から筋肉組織を取り出し、その細胞を大量培養。成熟した筋細胞とし、ティッシュエンジニアリングの技術でつくり出されるのが「培養肉」
ティッシュエンジニアリングとは!
ティッシュエンジニアリングとは、ひとことで言うと、生命科学と工学を組み合わせて、機能を失った臓器や組織の代用となるものをつくり出し、再生医療に役立てること。清水先生はこの分野の第一人者ドッキ。
先生はおよそ20年前から、細胞をシート状に培養した「細胞シート」を使って、心臓の筋肉をつくり出す研究に取り組んできた。なんと、培養皿の上で心筋細胞シートがドキドキと拍動するんだって! 驚きドッキ!
清水先生のラボでは、この心筋細胞シートを何枚も重ねて血管を通し、厚みのある組織とし、心臓のかわりになるパーツをつくり出そうと取り組んでいるドッキ。
細胞を肉にするには、細胞シートを使う方法のほか、筋芽細胞を3Dプリンターを使って成形する方法や、マイクロキャリアビーズなどの足場上で培養するなど、さまざまな方法があるそうだ。
同期して拍動する心筋細胞シート
ティッシュエンジニアリングの技術で培養肉をつくる
十数年前にティッシュエンジニアリングの技術を使って培養肉を生産することを提唱したのは、マーストリヒト大学(オランダ)の血管生理学が専門のマーク・ポスト教授だ。教授は2013年に世界で初めて培養肉を使ったハンバーガーを発表。2016年には「モサミート」社を設立し、培養肉の量産化を進めている。また米国のベンチャー企業である「イートジャスト」社は、2020年12月にシンガポールで培養肉の製造販売許可を世界で初めて取り、チキンナゲットの販売をスタート。培養肉ってよく知らなかったけれど、もう市場にも登場してるんだね。
清水先生のラボでも、筋肉のもとになる筋芽細胞を培養してできた細胞シートを10枚重ねてハムをつくったことがあるんだって。
本物のハムそっくりドッキ!
牛の頬肉10gから筋芽細胞を採取、3億個に増やして、10枚の細胞シートをつくり、重ねて、細胞同士を接着させ、食紅で着色して完成
穀物を使う培養液のかわりに藻類を活用
ところで、細胞を増やすときに使う培養液の成分は、一般的には、糖やアミノ酸、ビタミン、増殖因子で、トウモロコシなどの穀物に含まれるでんぷんから作られるとか。つまり、培養液の生産には大量の穀物が必要になってしまうってこと。これじゃ、人口爆発で穀物がもっと必要になるのに、穀物の取り合いになってしまうドキ! それに穀物の生産には、肥料や農薬、化石燃料も使われている。なにか培養液のかわりになるものがあればいいのになぁ…。
そこで清水先生のラボで考えついたのが、培養液のかわりに、クロレラなどの藻類を利用すること。
「藻類は水と光があれば増えます。そして培養に必要な酸素やグルコース、アミノ酸、ビタミンなどの栄養分を供給してくれるわけですね。私たちはすでに2017年に、藻類を細胞シートでサンドイッチにして光を当てることで、厚い心筋組織をつくり出すことに成功しています。この手法を培養肉に応用して、動物細胞と藻類を組み合わせて培養することで、大きな農場と牧場にかわる食料生産システムができます。食料になる穀物と競合しないし、地球環境にもやさしく、農薬などを使わないのでクリーン。最近ニュースでよく話題になるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点からも、望ましい食肉生産というわけです」と、清水先生はおっしゃってるドキ。
トウモロコシなどの穀類を家畜に食べさせる食肉生産から、藻類から栄養を取り出し、動物細胞を培養し食肉とする持続可能な食肉生産へ
宇宙での食料にも!
藻類を使う利点はほかにもある。水と光エネルギーがあれば成長するので、太陽光のかわりにLEDを使えば、宇宙旅行や宇宙基地で培養肉を生産することもできるんだって!
「人間の排泄物のアンモニアなども藻類の培養に使えますから、閉鎖空間での物質循環が可能です。SDGs的な視点だけでなく、宇宙空間での利用や、大災害時のシェルター内での食料にと、SF的な展望も描けるテクノロジーなんですよ」
清水先生は、地球と宇宙の食料問題解決をめざした「SPACE FOODSPHERE」というプログラムにも参加して、JAXAなどとともに、藻類と動物細胞を組み合わせた食肉づくりの研究を進めてるドッキ!
コストと食感、消費者の理解がカギ
培養肉づくりの課題は、第一にコスト、次いで食感と先生は言う。例えば、先ほどのハムは1枚10万円もかかっているドキ!
「培養液のかわりにエコでコストが安い藻類を使い、大型タンクで大量に細胞を培養して工業化すれば、ある程度コストは抑えられると思います。もう一つの食感、つまり舌ざわりや肉らしい歯ごたえなどは、例えば培養するときに電気刺激を加えて”筋トレ”させることで引き締まった筋組織になることがわかっていますが、やればやるほどお金がかかる。ハンバーガー的なものであれば今の技術で問題ありませんが、ステーキを求めようとすると、実現のハードルはまだまだ高いですね」
技術的なことはこれからの研究開発次第だけど、もう一つ大きな課題が、消費者に受け入れられるかどうか。
日本細胞農業協会が2021年2月に発表したアンケートによると、消費者が培養肉に期待するのは「味がおいしいこと」(38.9%)、「食料危機を回避できること」(27.9%)、「価格が安いこと」(27.2%)など。半面、気になること・心配なこととしては「食の安全性が担保されているか不安」(37.9%)、「おいしいかどうか」(34.8%)、「何が入っているかわからない」(29.3%)が上位だった。
「培養肉の意義を伝えることで、培養肉への支持は増えていくと思います。安全性については現在の食品関係の法律でカバーできると見ていますが、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品などと同じように、培養肉の新たなルールを作る必要があるかどうかについては、現在、議論が進められているところです」
夢を共有することが大切
清水先生は中高校時代、宇宙飛行士に憧れていたそうだ。
「医学部に進み、卒業後は循環器内科の医師として心臓病の患者さんの治療に取り組んでいたんですが、指導教授の勧めもあって大学院へ。そこで自分が本当に研究したいものは何か、模索していました。博士課程を修了するころ、細胞シート工学について知り、細胞シートで心臓をつくれば心臓移植するしか方法のなかった患者さんも救えるはずだと、細胞シートを使った心筋細胞シートづくりの研究に飛び込んだのです」
その後、iPS細胞の登場もあって、日本の再生医療は大きく進展。拡張型心筋症の治療や、角膜の再生医療をはじめ、膝軟骨や歯周組織、食道など、細胞シートを使った再生医療は、からだのさまざまな部位への臨床応用が進んだドキ。
清水先生は、研究を進める過程で、「心臓をつくりたい」という夢を語り、多くの人たちとその夢を共有してきた。
培養肉づくりも、「将来、宇宙空間でも共有可能な、クリーンで持続可能な肉をつくりたい」と目標を掲げ、それに共感する企業や研究者、学生が先生のもとに集まっている。
「ドラえもんの歌にあるように、『できたらいいな』という大きな夢を持って、それをイメージしてやり続けることが大事。スマホなど、子どものころは夢物語でした。やり続ける人がいたからこそ、実現しているのです」
細胞シートについて詳しく知るには!
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◎細胞シートを考案した、東京女子医大 岡野光夫博士の記事
■フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療
第21回 細胞シートで臓器づくりに挑戦アニメーション
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/21/slideshow.html
インタビュー
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/21/interview01.html -
◎細胞シートを使った心臓病の治療に取り組む大阪大学澤芳樹先生の記事。
この記事で登場する細胞シートは、清水先生と澤先生のグループで共同研究を進めたもの。
■フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療
第11回 心臓を元気にする再生医療アニメーション
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/11/slideshow.html
インタビュー
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/11/interview01.html -
◎そのほかの細胞シートを使った再生医療については
■フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療
角膜:第13回、膝軟骨と半月板:第15回、歯周組織:第17回を参照してね。
培養肉について、詳しく知るには!
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培養食料研究会
http://culfoodeng.wp.xdomain.jp/持続可能な食料生産を実現する新しいコンセプトを日本から発信しようとする大学や企業研究者による研究会。研究会の開催、培養肉関連の研究を紹介している。
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日本細胞農業協会
https://www.cellagri.org/「細胞農業」とは、本来は動物や植物から収穫される産物を、特定の細胞を培養することで生産する方法のこと。消費者の意識調査、子ども達に細胞農業への親しみを持たせる活動、培養肉をはじめとする新しいものづくりについて議論する「培養細胞会議」を開催。
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細胞農業研究会
https://crs-japan.org/programs/cellular-agriculture/多摩大学ルール形成戦略研究所が中心となって2020年1月創設。培養肉生産のルールづくりを提案したり、培養肉・植物性タンパク質業界のニュースを発信したりしている。
(取材・文:「生命科学DOKIDOKI研究室」編集 高城佐知子)