中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

さらに分子レベルでチューリングの波の研究を進める

近藤先生のこの研究はこれからどんな展開をしていくのだろう。
「私は、『波』の作用は、動物のからだの模様をつくるだけではなく、生命のかたちづくりのさまざまな局面で起きているのではないかと考えています。実際、これまで私たちの指が形づくられていくときには遺伝子によって決定されていると考えられていましたが、最近になってイギリスの研究者が、指の形成はチューリングの理論のように波がつくっているのではないかという論文を発表しています」

また、肺は食道から分かれた小さな袋が次第に枝分かれしてできていくが、どのようにしてこのような複雑で精巧な肺の構造がつくられていくのかわかっていなかったらしい。しかし、最近、この複雑な肺の構造をつくっていくときにも、活性化因子と抑制因子の働きによる波が重要な役割を果たしているのではないかという研究が、日本でも進められているという。

「きっと、遺伝子はからだの構造の大まかな形を決める役割を持っているのでしょう。肺でいえば、初期の頃形成される気管支の分岐などは、遺伝子による設計図に記されているのだと思う。けれども、肺胞の小さな分岐のところまではその設計図には書かれていなくて、その先はチューリングの理論のように、細胞同士のやり取りを現場でしながらつくりあげていくのだと思います。
また、いまは、波がどのようして起きるかという研究からさらに進んで、模様を形成する遺伝子を解析してチューリング理論を分子機構のレベルで明らかにしようと研究を進めています。分子レベルで解明することができれば、生物に起きるチューリング波(皮膚模様)を自在に操ることができるかもしれません」

これから、私たちのからだのさまざまな部位がどのようにできあがっていくのか、チューリングの理論で明らかにされていくと、再生医療の新しい技術の開発にもつながっていくと期待できそうだ。

最後に中高校生に次のようなメッセージをいただいた。
「まだまだ、生命科学分野でもわからないことがたくさんあります。そうした謎を解明していくためには、生き物を自分で見て、触って感じることが大切。教科書などはだれかがすでにやったことが載っているわけで、教科書などには頼るな、と言いたいですね」

(2012年6月12日取材)

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