フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第3回 ES細胞とiPS細胞 からだを再生させる細胞の話 京都大学 iPS細胞研究センター 青井貴之教授 インタビュー iPS細胞研究の可能性と課題は?

幹細胞を人工的につくりだせ!

───iPS細胞のような細胞は初めてつくられたのですか。

いま、iPS細胞は人工多能性幹細胞というものだとお話ししたのですが、iPS細胞がつくられた経緯を理解するために、まず、幹細胞とは何かということからお話ししましょう。
幹細胞の「幹」は、木の幹と同じ意味で、幹から枝や葉などが分かれて生ずるように、幹細胞は、血液細胞や筋肉細胞、神経細胞など、私たちのからだをつくっている細胞をつくりだす能力を持っています。そして、幹細胞は同時に、自分自身、つまり幹細胞そのものをもつくりだすことができる細胞なのです。

幹細胞

私たちが腕などにちょっとした傷をつくったとき、自然に傷口が治るのは、傷口を治すために傷口の周りの細胞が同じ細胞を新しくつくりだすからです。このように私たちのからだの中にあって、細胞を新しくつくりだす能力を持った細胞のことを「組織幹細胞」といいます。
こうした組織幹細胞は、骨髄、血液、眼の角膜と網膜、脳、肝臓、皮膚、胃や腸などの消化管などで見つかっています。組織幹細胞は、基本的に自分と同じ種類の細胞か、限られた種類の細胞しかつくりだすことはできません。そして、からだの外に取り出して培養し増やすことが難しいという特徴があります。

───皮膚のちょっとした傷は治っても、事故で指を切断してしまったときは、元に戻らないわけですね。

ええ。でも、もし、何にでもなれる幹細胞を人工的につくりだすことができて、いくらでも培養して増やせるなら、その細胞を利用して、失ったからだの機能を復活させることもできるかもしれない。そんなことから、人工的に幹細胞をつくりだす研究がはじまりました。
そして、1998年、米国ウィスコンシン大学のトムソン教授らによって、ES細胞(胚性幹細胞)がつくられたのです。

───ES細胞とは、どんな細胞なのか、どんなふうにしてつくるのか、もう少し詳しく説明してください。

私たちのからだは、受精卵が成長してできたものですが、その受精卵が分裂して何日かたつと、直径0.1ミリくらいの球形をした胚盤胞になります。この胚盤胞の中にある胚の塊(内部細胞塊といいます)を取り出して、培養皿(シャーレ)の中である環境で培養するとES細胞をつくることができます。

受精卵からES細胞をつくる

ES細胞は、組織幹細胞とはちがって、どんな細胞にもなれて、しかもいくらでも培養皿の中で増やすことができます。ですから、ES細胞を使えばダメージを受けた細胞を補充するなど、再生医療に役立てることができるわけです。

───何にでもなれる細胞で、しかも再生医療の役に立つという意味で、ES細胞はiPS細胞とすごく似ていますね。

ええ、両者の性質はとても似ています。ただ、ES細胞をつくるときに利用する胚は、お母さんの胎内に戻してやれば、生命として誕生することができる細胞のため、胚を利用することに倫理的な問題があると指摘されたのです。
また、ES細胞は治療に使うとき、他人の胚を利用するので、患者さんが拒否反応をおこすことがあります。これに対してiPS細胞は、自分の細胞でつくることができるので、拒否反応がおきる心配は少ないのです。
そこで、胚からつくるのではなく、成人したヒトのからだの細胞を使って何にでもなれる細胞をつくろうとして、iPS細胞の研究がはじめられたというわけです。

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