フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第3回 ES細胞とiPS細胞 からだを再生させる細胞の話 京都大学 iPS細胞研究センター 青井貴之教授 インタビュー iPS細胞研究の可能性と課題は?

何にでもなれる細胞の能力にかけられたロックをはずす

───なぜiPS細胞がつくられるようになったのかはわかりました。それで、iPS細胞はどのようにしてつくるのですか。

先ほど私たちの細胞は、ある時期から何にでもなれる能力をなくしていくと言いました。しかし成長してしまった細胞も、さまざまな細胞になるための設計図である遺伝子は一揃い持っているのです。しかし、多くの設計図にはロックがかけられているんです。たとえば、皮膚細胞が突然肝臓をつくる能力を持ったりすると、皮膚のところにいきなり肝臓ができてしまったりして具合が悪いですね。
何にでもなれる細胞をつくるには、このロックをかけている命令を解除してやればいいわけです。つまり、受精卵や胚の段階では、ロックがかけられていないため、何にでもなれる状態だったわけですから、そのときまで時間を巻き戻してやればいいということです。細胞にかけられているロックを解除し、細胞が何にでもなれる段階まで時間を巻き戻したりすることを“初期化”といいます。

───パソコンを買ったあとで導入したいろいろなソフトをはずして、買ったときと同じ状態に戻すのも“初期化”ですね。いったいどんな方法を使うのですか?

山中研究室では、大人の細胞にどんなしかけをすれば初期化できるかを研究しました。すでに生命科学の研究の成果によって、卵への核移植や、ES細胞との細胞融合によって細胞の時間を巻き戻すことができるということはわかっていて、多くの研究者はそれは“受精卵に不思議な力があるからだ”として、受精卵のほうに注目していました。けれども、山中研究室では、ES細胞の中に細胞を初期化する何らかの因子があると考え、その遺伝子を探していったのです。

───たくさんの遺伝子の中から、どの遺伝子が初期化にかかわっているのかを探すのはたいへんな作業ではなかったのですか。

ES細胞にとって特に大切な遺伝子、つまりES細胞をES細胞として特徴づけている遺伝子を探す作業を続け、まず24個の遺伝子を探し出しました。この24個の遺伝子を一つひとつからだの細胞に入れてみたところ、その段階では何の変化もおきませんでした。ところが、24個の遺伝子を一緒に入れたところ、ES細胞に似た細胞ができました。そこでさらにどの組み合わせなら多能性を持つのかの実験を続け、2006年8月に、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycという4つの遺伝子が初期化に関係していることを突き止めたことを発表、翌年11月に、ヒトの皮膚細胞からiPS細胞をつくりだすことに成功したと報告したのです。

1950~60年代 英国のガードン博士ら、クローンガエルに成功。体細胞も遺伝子を失っていないことを示す
1981年 米国のエヴァンス博士、マウスES細胞を発見
1997年 英国のウィルムット博士、クローン羊ドリー誕生。哺乳類でも細胞を元に戻せるとわかる
1998年 米国のトムソン教授、ヒトES細胞を発見
1998年 神戸理化学研究所の若山照彦博士 クローンマウスをつくる
2001年 京都大学多田高博士 マウスES細胞と体細胞の融合により核を初期化
2006年 京都大学 山中伸弥教授 マウスiPS細胞をつくることに成功したと発表
2007年 京都大学 山中伸弥教授 ヒトiPS細胞をつくることに成功したと発表
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