フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第3回 ES細胞とiPS細胞 からだを再生させる細胞の話 京都大学 iPS細胞研究センター 青井貴之教授 インタビュー iPS細胞研究の可能性と課題は?

未来への目標を持ち、現在を深く掘り下げて考え続けてほしい

───青井先生の今後の研究はどのようなテーマになるのですか。

いまお話しした、iPS細胞の安全性の検証と、将来の臨床に備えた安全性の高いiPS細胞の開発の研究です。私は、研修医のときに研修先の病院で「とにかく患者さんを大切にしろ」という教育を徹底的に受けましたから、研究のための研究ではなく、いま手がけている研究をなんとかして医療の現場につなげていきたいという思いが強いのです。iPS細胞の再生医療への応用は、クリアしなければならない点も多いです。でも、いつかiPS細胞を臨床現場で役立てる日を夢見て、研究に取り組んでいます。

───中高校生にメッセージをお願いします。

まず、iPS細胞ができるまでには、DNAの研究、細胞を融合する技術、ES細胞の開発など、さまざまな研究の積み重ねがあったことを知っておいてほしいですね。科学の発展は一足飛びになしうるものではなく、これまでの研究の成果を生かしながら、未来に向かって一人ひとりが努力を積み上げてきた結果です。
山中教授がiPS細胞をつくる研究に取り組んだとき、細胞を初期化して医療に役立てることなど難しいと多くの研究者は考えていました。けれども、いま治らない病気だからといって、患者さんにあきらめさせてはいけないし、医者や研究者もあきらめてはいけません。
未来に目を向け、いつかはできると信じて研究を続けたことが大きな成果を生み出したのです。皆さんも、こういう病気を治したいと、未来を見つめて、多少しんどくても目標を持って考え続けてみてください。
そして、広い視野を持つこと。この場合の広い視野とはただ単に遠くを見つめるというのではありません。たとえば、生命科学に興味があるというので、いま話題になっているiPS細胞の研究をしたいというだけではなく、身近に起こっていることを深く掘り下げて考えてみてください。たとえば、脊髄損傷の人が近くにいたら、その病気がどんなにつらいことか、朝、目ざまし時計をどう止めるのかからはじまって、バナナをどうやってむくのか、トイレではどんな不自由があるのかなどに思いをめぐらせてほしい。
未来や広い世界を遠くまで見つめる目と、身近な現実を深く掘り下げて考える、その二つを同時に持ってほしいと思います。

(2009年11月19日取材 2010年1月公開)

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