フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第3回 ES細胞とiPS細胞 からだを再生させる細胞の話 京都大学 iPS細胞研究センター 青井貴之教授 インタビュー iPS細胞研究の可能性と課題は?

安全性の問題をクリアすれば、細胞移植などにも可能性が

───ES細胞やiPS細胞にはどんな可能性があるのですか。

よく取り上げられているのは再生医療への応用です。
たとえば、目の病気では、iPS細胞、ES細胞の両方から網膜を再生する研究が進んでいます。また、インスリンという物質の働きが悪かったり、不足することによっておきる糖尿病なども、患者さんが多く、期待されている分野です。ES細胞に化合物を加えてすい臓細胞の元となる前駆細胞を作成するとともに、インスリンを分泌する細胞をつくることにハーバード大で成功したというニュースもあります。
その他、肝臓や腎臓など臓器の病気で、移植以外に治療法のない場合など、iPS細胞でつくった幹細胞からそれらの細胞をつくりだすことができれば、医学に大きな貢献ができます。とはいえ、そのためには、まだまだクリアしなければならない問題があまりにもたくさんあります。新聞報道を見て、明日にでもすぐに再生医療が実現するかのような期待を抱きがちなのですが、その前になすべきことは多いのです。

───治療に使う場合に、iPS細胞にはどんな問題点があるのですか。

いちばん重要な問題は安全性の問題です。たとえば、iPS細胞をつくる場合に4つの遺伝子を使うといいましたが、その中の一つの遺伝子が特に細胞をがん化することが問題となりました。いまではその遺伝子を使わなくてもiPS細胞をつくることができるようになりましたが、ではそのほかの遺伝子は、細胞をがん化する怖れがないかというと、そうとは言い切れません。
というのは、遺伝子を入れるとなぜiPS細胞ができるのか、そのプロセスがわかっていないからです。つまり、4つの遺伝子を入れて何十日か経つと iPS細胞ができるという最初と最後はわかっているけれど、途中がわからない。そういう状態だから、iPS細胞が受精卵のような状態にほんとうに戻っているかも検証できていないのです。正常な発生過程を経てつくられた細胞と、ほんとうにまったく同じものができているか、まだ答えは出ていないのです。
また、確実にめざす細胞をつくりだす分化誘導の技術も精度を上げていく必要があります。
iPS細胞の研究は、まだそうした課題を一つひとつクリアしていかなければならない段階です。

───まだスタートしたばかりということですね。再生医療以外に、iPS細胞が医学の役に立つことがありますか。

病気のしくみの解明や、創薬(薬をつくること)の分野が有望ですね。たとえば、肝臓の病気にかかった人を治す薬をつくる場合、その患者さんからつくったiPS細胞から人工的に疾患のある肝細胞を大量につくることができれば、その肝細胞にどんな薬が効くのかを研究することができます。この場合は、ES細胞よりもiPS細胞のほうが適しています。ES細胞は胚からつくるため、将来どんな病気にかかるのかわからないのに対し、iPS細胞はすでに疾患のある人の細胞からつくるからです。

PAGE TOPへ
ALUSES mail