フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第6回 免疫システム研究のおもしろさ (独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター センター長 谷口 克 氏インタビュー 宇宙から来た病原体にも対応する免疫システムはすごい!

免疫細胞を利用したがん治療薬の開発に取り組む

───いま、どんな研究をされているのでしょうか。

わたしたちは、いま、NKT(ナチュラル・キラー・ティー)細胞という免疫細胞の研究に力を注いでいます。
NKT細胞は、1986年、わたしが千葉大学医学部教授時代に発見した免疫細胞で、自然免疫と獲得免疫の両方に関係します。自然免疫というのは、マクロファージや樹状細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞など、わたしたちのからだに生まれつき備わっている免疫細胞です。獲得免疫というのは、T細胞、B細胞など、自然免疫では撃退できなかった病原体に対応する免疫で、抗原と出会って学習し、病原体を記憶する免疫システムのことです。

NKT細胞

NKT細胞はT細胞やB細胞などに比べてリンパ球中に含まれる量が少ないけれども、がんを治療するために重要な働きをすることがわかってきました。がんを治すためには、次の課題を同時に解決する必要があります。その第一は、がん細胞には目印のあるものと目印を失ったがん細胞が混じっています。これらをともに排除しないとがんは治りません。獲得免疫系のキラーT細胞は目印のあるがん細胞を殺します。一方、自然免疫系のNK細胞は目印を失ったがん細胞を殺します。第二には、がんは、からだの中にできたがん細胞の情報を伝える役割を担う樹状細胞の働きを抑え、免疫不全状態にしてしまいます。NKT細胞は、これら二つの重要課題を解決できる細胞です。そのために、NKT細胞を活性化させる物質を取り込ませて、それを患者さんの体内に入れてあげると、免疫不全状態を改善し、がんに対する免疫反応を活性化し、進行肺がんを治療した結果では、平均生存期間が現在使用されている分子標的薬に比べても数倍延びることが臨床試験によってわかってきました。
しかし、この治療法を受けることができる患者さんは全体の30%で、60%以上の患者さんはNKT細胞数が少なく、この治療法を受けられません。そこで、わたしたち理研免疫・アレルギー科学総合研究センターでは、マウスの成熟したNKT細胞からiPS細胞※をつくり、そこから大量にNKT細胞をつくることに成功しました。これから、iPS細胞を利用して患者さんからつくったNKT細胞を体内に入れてあげることで、NKT細胞の少ないがん患者さんの治療に貢献できると期待しています。

※iPS細胞については、「フクロウ博士の森の教室 第3回 ES細胞とiPS細胞」を参照のこと。

NKT細胞
───そのほかにはどんな研究を?

いまや国民病ともいわれる花粉症ですが、わたしたちは製薬メーカーと提携してスギ花粉ワクチンの開発に取り組んでいます。
このワクチンは、ワクチン治療の際に起こるアナフィラキシーショックを誘発しない画期的なもので、現在の計画では、2013年に臨床試験を行い、2018年には商品として発売しようと考えています。

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