フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第6回 免疫システム研究のおもしろさ (独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター センター長 谷口 克 氏インタビュー 宇宙から来た病原体にも対応する免疫システムはすごい!

免疫の研究はこれから。中高校生に期待しています

───免疫の研究をされるようになったのは、どんなきっかけからですか?

高校時代には循環器系の医者になるつもりでいて、大学も医学部に進学し、実際に医者としての第一歩を踏み出しました。医者になって1年目のこと、免疫疾患の患者さんを受け持ったことから、免疫の不思議な力について考えるようになったんですよ。免疫システムには抗体というものがあり、どうやら、どんな外敵(抗原)に対してもこれをやっつける準備ができているらしい。ただ、このころはまだ利根川進博士が、抗体遺伝子がどのようにして作られるのかそのメカニズムについての謎を解く前だったので、自分でいろいろ免疫関係の本を読んでいくうちに免疫の不思議にひきつけられていきましたね。

───免疫について、まだわかっていないことは多いのですか。

むしろ、わからないことだらけといってもいいでしょう。
たとえば、免疫記憶がなぜ何十年も続くことができるのかも謎の一つです。免疫記憶というのは、天然痘ウイルスなどの病原体がからだに入ってくると、ウイルスを覚えていて、再びからだに天然痘ウイルスが侵入するといち早く攻撃し、病気を起こさないというしくみでしたね。でも、免疫細胞は日々古い細胞がどんどん死んでいき、新しい細胞に生まれ変わっていきます。わたしたちのリンパ球は、1kgありますが、その0.5%が日々更新されていて、免疫システムは皆変わってしまうはずです。自分は変わってしまうのに、免疫記憶は何十年も保たれていく。どんなしくみが隠されているのか不思議です。
このほか、赤ちゃんが母親の胎内に生まれると、いわば、赤ちゃんは父親と母親の遺伝子を持っているので母親にとって異物でしょう。それなのに、拒絶反応も起こさずに、10か月もの間おなかの中で育ててしまう。いったい、なぜだろうと思いませんか。また、なぜ10か月で生まれるのでしょうか。不思議なこと、わからないことが免疫にはたくさんあります。
ということは、中高校生の皆さんは、これから生命科学を学び、免疫のさまざまな不思議や謎を解明する機会があるということです。大いに期待していますよ。

(2010年6月6日取材)

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