フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

細胞、足場材料、成長因子、それぞれの選択に全力投球

───再生軟骨の研究で難しかったのはどこでしょう。

再生医療の3要素は「細胞」「足場」「成長因子」です。そのそれぞれに最適なものを選択することが重要であり、難しいポイントです。
まずさまざまな組織を構成する細胞のソースとして何を用いるか。使う細胞にもいろいろ種類があって、すでに体細胞として成熟している細胞もあれば、細胞を生産する幹細胞もあります。その幹細胞にも、体性幹細胞や間葉系幹細胞、ES細胞などいろいろな種類があります。どんな細胞を選択したら、安全で扱いやすく、増殖が容易かを検討していかなくてはなりません。
また、軟骨細胞が増えていく足場の材料の選択も重要です。今、足場材料としてはポリ乳酸(PLLA)を使っていますが、これが最適といえるかどうか、その模索も重要です。
さらには細胞を増殖させるための成長因子も網羅的に検証していく必要がありました。臨床に使うのであれば、薬事承認を得なければならず、しかも一種類では効果がありません。したがって複数を組み合わせてみて、一番適切な組み合わせを選んでいかなければならず、手間も時間もかかるのです。
こうして時間をかけて3要素を選び出して、マウスやイヌなどで実験してみると、それぞれの動物によっても反応が違い、うまくいく場合とうまくいかない場合が出てくるなど、試行錯誤しながら研究を続けましたね。

───研究を始めてから何年くらいで、最適な細胞や足場材料、成長因子が探し出せたのですか。

そうですね、だいたい5年くらいかな。それからヒトでの臨床をするとなると、厚生労働省の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」を通す必要があります。そのためには、細胞をクリーンな状態で培養できる細胞培養センター(CPC)をつくる必要があり、これにも時間がかかりましたね。
幸い、この段階まででかなり良い結果が出せたのですが、さらに今後、実際の医療製品を出すために、インプラント型再生軟骨では、山形大学、東京医科歯科大学、そして東大とが共同して多施設臨床研究を行っています。これは、山形大学で採取した細胞を東大に搬送して、東大のCPCで再生軟骨をつくり、それをさらに移植する病院などに輸送するとなると、その過程で取り違えなどが起こらないよう、輸送のトレーサビリティを構築しておかなければなりません。また、運搬するときにどんな圧がかかるのか、保存液に問題がないかなど、データを集めて、薬事販売をするための企業治験の準備もしなければなりません。あれやこれやで、研究をスタートさせて患者さんに届けるまでに10年以上はかかりますね。
ただ、再生医療を本格的に推進するために2013年末に「再生医療新法」(再生医療安全性確保法)と改正薬事法が成立したので、こうした手続きがこれからは簡略化され、仮承認によって薬事販売できるようになるなど、実現が少し早まる可能性がありますね。

───軟骨関連の再生では今後どのように研究が進んでいくのか、見通しはいかがですか。

鼻の軟骨は荷重がかからないので、比較的早期に5年くらいのうちに医療製品として実用化されるのではないかと思います。しかし、気管軟骨は一部の気管に再生軟骨を使うだけならともかく、気管の周辺を一回りする全周性の軟骨をつくるとなると、これはなかなか難しくて、少し先の話になるでしょう。また、膝関節は軟骨だけでなく骨の再建なども含まれてくるので、これから10年はかかると思いますね。

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