フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

健康と病気の予防・先制に期待する

───これから、エピジェネティクスの研究はどのように展開していくのですか。

ゲノムDNAの塩基配列を自動的に読み取る「高速シーケンサー」の性能がものすごく向上してきました。DNAに化学的な処理をすることで、DNAのメチル化を速やかに解析できるようになったのです。
DNAのメチル化とは、塩基の中でシトシンにメチル基が付けられたものです。このメチル化は、いろいろな病気と密接な関係があることがわかってきました。たとえば、「がん」においては、がん抑制遺伝子(細胞のがん化を抑制する遺伝子)のプロモーターが高くメチル化されて、働けないことが知られています。そこで、ここのメチル化の状態を調べると、がん細胞の存在の有無がわかることになります。がんの診断や、がんに将来かかりやすいかどうかを判定するため、すでに実用化されています。
そのほかにも、「エピゲノム」による検査は、広く健康診断に応用されていくだろうと思います。現在では、血液や尿などを用いて、検査を受けた人のその時点の数値について調べています。このため、検査の前日にはお酒を飲まないように心がけるなど、それぞれの思いがありますね(笑)。しかし、エピゲノムの変化は、その人がこれまで蓄積してきた健康状態をまとめて調べられる、いわば「健康の履歴書」のようなものです。だから、前日にお酒を飲んでいたかどうかは、ほとんど関係ない(笑)。
このように、エピゲノムを調べて病気の診断をしたり、「あなたは肥満しやすい体質ですよ」というようにリスク評価に役立てることが、近い将来にはできるようになると期待しています。これからは、予防医学、先制医療にエピジェネティクスが応用されていくでしょう。

───エピジェネティクス研究の面白さはどこにありますか。

まだまだわからないことが多く、それだけに未知の可能性のある分野だということです。たとえば、神経細胞、血液細胞、肝細胞などで、どんな印づけが付けられるのか、どのようにその印づけがはずされているか、健康と病気でどう変わるのかなど、まだまだ謎ばかりです。
またエピジェネティクスが、現代の生命科学の重要なテーマに共通する基礎になっていることも挙げられますね。専門的にいろいろ異なったテーマについての共通語であるということができます。幹細胞をはじめとする発生医学と再生医療、がんや生活習慣病・認知症、高齢化社会における老化、次の世代を生み出す遺伝・生殖など、これらの重要なテーマにエピジェネティクス研究が欠かせない役割を果たしていることが大きな魅力です。エピジェネティクスを基盤にして、専門分野の垣根を超えて、シニアから若手の研究者が議論して、協働して、これからの研究を進めていけるのです。

───中高校生へのメッセージをお聞かせください。

自然、社会、生命、スポーツ・芸術など、好きなこと、興味と好奇心を大切にしてください。自分の原動力(エンジン)になります。また、いろいろな場や環境に身を置いてみましょう。いろいろな人と出会い、新しいこと、違ったことに触れてみましょう。自分の能力や適性について何か感じるものです。正しさと優しさを持って、一つのことに集中していくと、道は拓けるように思います。若い人が私たちを超えてくれると信じて応援しています。

(2014年11月取材)

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