フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

アンエクスペクテッドなものを見逃すな

───山田先生はなぜ生命科学の研究者になろうと考えたのですか。

高校生のころ十二指腸潰瘍になり、入院したんですが、そのときとても良いお医者さんに出会って、「医者っていい仕事だな」と思うようになったのです。みんなに感謝される仕事をして生活できるのは素晴らしいことだと。
でも、いざ医学部に入学してみると、どういう医者が良い医者なのか分からなくなりました。それで、より単純に自分が何が好きなのかを考えてみた。そうしたら、それが研究者だったのです。大学時代にノーベル賞を受賞した利根川進博士とジャーナリストの立花隆さんが対談した『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』という本を読んで感動したことも大きかったですね。問題を解決していくプロセスがスリリングでした。

───病理学を選んだのはなぜですか。

たまたまバレー部の先輩が属していた研究室の先生がとても熱心に病理学の研究をしていて、とてもおもしろそうだなと思ったからです。病理学は形を見分けることがベースになるのですが、私は高校時代、医者にならなければ建築家になりたいと思っていました。だから形については興味があって、病理の形を見分けるのは得意なほうでした。病理学の授業は、そういう意味でも面白かったですね。

───その後ポスドクでMITのラボに留学することになるわけですね。

私にとって大きな転機といえます。先ほどお話ししたように幹細胞やエピゲノムの有名な先生のいる、世界で最初にトランスジェニックマウスをつくった研究室でした。そこに「自分は大腸がんの研究をしてきたけれど、あなたの研究室でマウスを使って大腸がんのDNAのメチル化の意味を明らかにしたい」と手紙を出したら一発で通ってびっくりしました。私は地方大学の病理医でしたし、かたや留学先のラボは超エリート集団でしたから。
そこでディスカッションしながら一つの研究プロジェクトを進めていくプロセスは実に楽しく、刺激的でした。
それからいろいろあって山中先生から声をかけていただいて、京大のiPS細胞研究所で病理学の経験を活かしながら研究を続けているところです。

───中高校生へのメッセージをお願いします。

知的好奇心は人間の持っている本能ではないかと思います。自分が一生懸命になれるものを探して、この本能のおもむくままに一生の仕事に就くことができれば幸せだと思います。バイオロジーの世界についてお話しすると、この世界はまだ分からないことが非常に多い。だから研究していると予期しないこと、アンエクスペクテッドなことが起きます。そのとき、そこに「何かがある」と感じて探求すると、ブレイクスルーとなる気がします。予想できるものではなく、アンエクスペクテッドなものを見逃さずに、実験して成果を出せるかが問われる世界だと思います。

(2015年1月9日取材)

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