フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

被子植物との共生が昆虫の脳の力を高めた

───昆虫と哺乳類とでこれほど脳の大きさに違いが生じたのはどんな理由からでしょう。

私は、微小脳とは「外骨格を持った動物の脳」と考えています。外骨格を持つ動物には、昆虫などの節足動物のほか、ミミズなどの環形動物がいます。どちらも進化の初期にその祖先が外骨格を選択した仲間です。
外骨格の場合、大きくなろうとしても、海の中ではともかく陸の上では外骨格の重さが邪魔をしてしまいます。もし1mもの体を支えようとすると、分厚い外骨格が必要なため素早い行動は取れないでしょう。中生代に出現した哺乳類などの運動能力も知能も優っている恒温動物と同じ資源を巡って生存競争をしても、到底勝ち目はありません。
また昆虫は、組織に直接酸素を届ける器官呼吸方式を採用しており, 大きいと体のすみずみまで酸素を運べないのです。そこで、小さくなることで進化的な成功を勝ち取ったのだと思います。

───それにしても、昆虫はなぜ、陸上の生物種の3分の2を占めるほど繁栄したのですか。

まず1つ目は、軽くて薄いクチクラ(角皮)からできた翅を得たことで、軽やかに飛んで移動する能力が身についたことがあげられます。このため、両棲類や爬虫類などの捕食者から逃げることができ、また、餌を得たり、住む場所を探したりするにも有利だったと考えられます。
2つ目は、変態によって成長と繁殖の完全分離を実現できたことでしょう。完全変態するハチ、チョウ、ハエなどは、変態することによって、幼虫期では食べ物を摂取することだけに専念し、成体になってからは新しい生活環境を求めて移動し、配偶者と出会う機会を多く持って繁殖に専念できることが種の繁栄につながったといえます。
そして、これが最も重要なポイントですが、昆虫の多くが花をつける被子植物と共生して生きたことです。中生代に陸上を支配していた裸子植物は風によって花粉を飛ばし受粉していましたが、新生代になると被子植物が現れて、昆虫はその蜜や花粉を食べて栄養とし、花から花へ飛びかい受粉させた。こうした共生関係を結んだことでお互いに繁栄できたのだと思います。

───昆虫が繁栄した3つの理由と脳には何か関係がありますか。

これらの3つはすべて神経系の働きが関係しています。翅を使って移動するためには翅の素早い運動を制御する能力が必要で、変態や脱皮のためには脱皮ホルモンの分泌など内分の働きと神経系の密接な協調が必要です。被子植物と共生するうちに、花の色や香りは蜜や花粉のありかを知らせるシグナルであることを知り、昆虫はこれらのシグナルを記憶する脳の力を身につけていったに違いないのです。

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