フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

昆虫の脳から学ぶことは多い

───ヒトと昆虫の脳を比べたとき、昆虫にないものは何でしょう。感情でしょうか?

ほとんどのものは昆虫にもあるように思いますね。動物の場合は感情ではなく「情動」と言いますが、情動にしてもヒトに比べればその働きは弱いけれど、決して昆虫にないわけではありません。攻撃や防御モードのとき、あるいは交尾のとき、行動を切り換えるホルモンが出ています。われわれが昆虫の感情を読み取れないだけかもしれません。
研究が進むにつれて、ヒトと昆虫の脳は、基本設計においてかなり似ていることがわかってきました。ただ、違いがあるとすれば、ニューロンの数がヒトの場合1000億個あり、昆虫の場合は100万個しかないことからくる機能の差が大きいと思います。シンプルな部品でも複数組み合わせると、もとの部品にはなかった新しい機能を生み出せるのです。これは「創発性」と呼ばれます。ヒトが言語を操る能力などは創発性の産物に違いありません。
また、ヒトは「社会」をつくり、コミュニケーション能力を磨くなどのなかで大脳皮質を大きく発展させました。その結果、言葉や理性、豊かな感情などを獲得していきました。こうして、ヒトはほかの生物の頂点に君臨しているように見えますが、ヒトの活動によって地球環境を悪化させるなどの危うさもまた持っていると思います。
本編でもお話ししたように、ヒトの脳をスーパーコンピュータとするなら、昆虫の脳はノートパソコンやタブレット。それでもノートパソコンは、スーパーコンピュータにはない、コンパクトさ、軽量さがあり、使い勝手が良く、陸上に生息する生物としては最大の勢力を誇っています。
一概にヒトの脳が昆虫の脳よりも優れているとは言い切れません。ヒトが昆虫から学べるものは多いと思いますね。

───昆虫の脳の研究のおもしろさはどんなところにありますか。

昆虫の脳は、これまでお話ししてきたように非常に精巧にできています。20年以上の月日をかけて研究してきましたが、まだ解明できていないことばかりです。それにチャレンジするのが楽しいですね。

───中高校生にメッセージをいただけますか。

学校の勉強以外に、いろいろなものに興味を持ってもらいたいですね。世の中にはいろいろおもしろいものがあふれています。たとえば、家族に興味を持って観察してごらんなさい、よく見ていると両親って不思議な生き物であることを発見できるかもしれませんよ(笑)。

(2015年4月1日取材)

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