公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

人工知能を進化させたディープラーニング

銅谷先生、囲碁や将棋の名人が人工知能に負けてしまったということですが、いったい人工知能は、どのようにして名人に勝つほどの腕前になったのか、その仕組みを教えてください。

人工知能は簡単に言えば、人間がいろいろな問題を解くときにやっていることを分析してそれをコンピュータに取り入れたものなんだけれど、特に最近進歩してきたのが、脳の仕組みを参考にした画像認識と音声認識の分野なんだね。人工知能を搭載した囲碁や将棋のソフトは、その画像認識の技術を活用しているんです。

私、囲碁も将棋もあまり知らないんですが、「こう打つと相手はこう打つ」、それなら「こう打とう」というふうに論理的に考えるもので、人工知能を搭載したソフトも、そうした論理回路でプログラムされていると思っていました。

リカ子さんの言うように論理的に考えていくと、囲碁は一手ごとに打てるパターンが多く、勝負がつくまでの手数が多いため、ものすごい量の計算をしなければならない。そのため、囲碁はこれまで人工知能にとってはとても難しいゲームだと考えられていて、人間に勝つのはまだまだ何十年も先だと思われていたんですよ。

ところが、人工知能が人間に勝っちゃったんですね。

2016年3月に、新しく開発された囲碁ソフト「アルファ碁(AlphaGo)」が、世界的なトップ棋士である韓国の李九段に4勝1敗で勝って、大きな衝撃を与えました。アルファ碁は進歩した画像認識の技術を使い、盤面の画像を見て、形勢が自分と相手のどちらに優勢なのか、次にどのような手を打てば形勢が変わるのかなどを判断できるようになったのです。これは人間の脳でいうと直感や感覚的なパターン認識に相当するもので、これまでの人工知能では苦手とされてきたものでした。

すべての手数についての膨大な計算をコンピュータにさせなくてよくなったことで、人間を負かすほど実力がアップしたわけですね。それで次にどんな手を打てばいいのか、それはどうやって決めるのですか?

どんな手がいちばん良い手なのかを決めるのは確率です。盤面を見て、「ここには絶対打ってはいけない」、「ここは打ってもよさそうだ」という手がいくつか出てきます。それらの局面を読んで、打つ場所の候補をいくつも挙げて確率的に最適な手を選ぶんです。

将棋でも「先を読む」ってことがあるけれど、最新の囲碁ソフトではどのくらい先が読めるんですか?

囲碁ソフトの場合、最後の局面まですべて読み切ることはとても大変なんですよ。そのかわり、ある程度読み進んでいくと、この手が最適なんだなというように、途中段階での盤面評価がとても良くできるようになってきたのが最近の特徴です。囲碁は中盤の戦いがとても大事と言われていて、その段階で最良の手を選択できることが、囲碁ソフトが強くなった一つの理由でしょう。

それを可能にするために、何か画期的な技術の進歩があったのですか?

それまでの人工知能は人間が考えた基準に従って、状況を判断したりものを動かしたりしていたのですが、いまは人間が判断基準をプログラムとして与えるのではなく、機械(コンピュータ)自身が自分で物事をどう判断したらいいのかを学習するようになったことです。こうしたコンピュータの学習方法を「機械学習」と呼んでいます。
もっとも、いくら機械が自分自身で学習するといっても、何の情報も与えなければ学習のしようがないですよね。たとえば画像を見て、犬かそれとも猫かを見分けさせたいとき、あらかじめ、目の形、耳の形、体の色など、注目すべき特徴のデータを入力しておきます。そして各々の特徴の傾向や組み合わせを機械が学習して、新たに提供された画像を見て「これは犬」などと回答(出力)するのです。

にゃるほどー。特徴を機械が学習していくのにゃん。

さらに、人工知能の進化のブレークスルーとなったのが、機械学習をより深化させた「ディープラーニング(深層学習)」です。

どんな点が進化したのですか?

人間が注目すべき特徴を与えるのではなく、どこに特徴があるか、どこに注目して判断すればよいかを、膨大なデータをもとに、機械自身が学習するのです。

ディープラーニングって、いったいどんな仕組みになっているんですか?

皆さんは脳には1000億個を超える神経細胞(ニューロン)があり、それらのニューロンが多様なネットワークを作って記憶や思考、計算などさまざまな働きをしていることを学んできたでしょう。ディープラーニングは、こうした人間の脳の仕組みを取り入れたニューラルネットワークという技術がベースになっています。さまざまな層で特徴をフィルタリングしていき、猫なら猫の部分的な特徴をもっとも良く捉えた素子を見つけてそれを改善していき、さらにそれらの組み合わせで猫の全体的な特徴を学習していくのです。
コンピュータの性能の飛躍的な向上と、インターネット上で大量のビッグデータが得られる時代になったことが、こうしたディープラーニングによる人工知能の進歩を後押ししたといえるでしょう。

機械学習とディープラーニングの違いとは?