公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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学部の枠にとらわれず人工知能と
脳科学にチャレンジしてほしい

銅谷先生がこれから力を入れていきたいと考えているのはどんなことですか。

人や動物が脳内シミュレーションするときの脳の働きをさらに探究したいですね。
先ほど、大脳皮質と小脳、大脳基底核との広いネットワークが脳内シミュレーションを担っていると言いましたが、具体的な行動の選択にあたっては、どのネットワークがどの機能を担っているのかなど、まだまだわからないことだらけです。
仮に汎用人工知能が実現するとしたら、専門のネットワークをフレキシブルにつなぎあわせた、つまりネットワークのネットワークによって、知能という高次の機能を実現していくはず。臨機応変に必要なネットワークを呼び出したりつないだり、そんな脳の仕組みに迫っていきたいですね。

ロボットを使ったプロジェクトは進化しているのですか。

最近はスマホに車輪をつけたロボットを開発しています。スマホなら高性能なコンピュータにカメラやマイクなどいろいろなセンサーがついていて、しかも目的に応じて自分で開発したプログラムを容易に搭載できます。加速度センサーなどの情報を使って起き上がりバランスをとることを学習するロボットとか、自分の見つけたものや探しているものを音声や身振りで伝えることを学習するロボットなどを研究中です。

人工知能と脳科学の関係はどうなっていくんだろう?

ディープラーニングが脳の回路の構造や働きから大きなヒントを得たように、脳科学をヒントに、今後もいろいろなブレークスルーがあるでしょう。逆に、人間のように柔軟な人工知能を開発しようとしていく中で、脳の仕組みを理解するためのヒントが得られるかもしれません。お互いが刺激しあって、脳の不思議を解明していくことができるのではないでしょうか。

人工知能や脳科学に興味を持ってこれからこの分野の研究をしたいと考えている中高校生が、どんな勉強をしておくとよいかアドバイスをお願いします。

基本的な数学は勉強しておいてほしいですね。ただ、数学を数学として勉強してもあまりにも抽象的でおもしろくないので、例えばロボットを設計したりそれを動かすプログラムを作ったりとか、具体的な問題に使ってみながら勉強すると良いでしょう。実は私も大学の1、2年生のころ、抽象的な数学はあまり好きじゃなかった(笑)。でもそのあと工学部の研究室で自分でプログラムを走らせるようになってから、行列とか微分方程式とかにはこういう意味があったんだとわかるようになったんです。
最近はPython(パイソン)という比較的取り組みやすいプログラミング言語が無料でパソコンにインストールでき、学生から専門家まで幅広く使われていて、人工知能のツールや教材も豊富なのでおすすめです。人工知能でなくとも、生命科学に取り組みたい人にとっては、いまやデータ解析を進める際にプログラムを組むことがごく当たり前になってきているので、勉強するとよいですよ。

人工知能や脳科学を研究したいと思ったら、どんな学科を専攻したらいいのですか。

いろいろな学問分野から入っていく方法があると思います。私の場合は工学部からスタートして脳科学の研究をしていますが、心理学や生物学の分野から来た大学院生で機械学習に夢中になって、卒業してから大手IT企業で研究員をしている人もいます。自分は理系だとか文系だとか何学部出身だからと、狭いカラに閉じこもるのではなく、おもしろいと思うものがあったら、どんどん踏み込んでいけばいい。私が工学部の学生のころは脳について何か知りたいと思うと、自転車をこいで医学部の図書館に行って見上げるような本棚を探しまわらなくてはいけなかったのですが、今はネットを通じてさまざまな分野の本や論文を検索してすぐに自分の机で読むことができますし、海外を含めて多くの大学のオンライン講義を受講することもできます。せっかく学部の壁を軽々と乗り越えることができるようになっているので、大いに活用してほしいですね。

スマホに車輪をつけたロボットを手に

(2018年6月更新)