公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第1回
幼いころの夢を実現していく
藻類研究者の歩む道

第2章 藻類は可能性の宝庫

藤原
それでは私が行っている研究を簡単にお話します。私たちの研究室では、微細藻類、つまり植物プランクトンのCO2固定を中心に研究を行っています。CO2固定というと、つまり光合成だ、とみんなは思うかもしれませんが、実は石灰化もCO2固定に入ります。私が進めているのは、藻類、とくに円石藻の石灰化の研究です。

海洋性単細胞藻類であるハプト藻の一種の円石藻。細胞周囲に「円石」と呼ばれる(炭酸カルシウムを主成分とする)石灰石の殻を多数付着させる特徴を持つ。(一部は筑波大学生命環境科学研究科 井上 勲教授のご厚意による)

石灰化の話をしましょう。石灰化というと、カルシウム塩の沈着ですが、骨や歯もカルシウム(リン酸カルシウム)を含んでおり、生き物が鉱物を作るバイオミネラリゼーションが、今非常に注目されています。
炭酸カルシウムの結晶の例としては、日本人がこよなく愛する真珠。真珠貝の内側や真珠はキラキラ光る結晶でできていますが、黒くて、ゴツゴツしている真珠貝の外側も、結晶型が違うだけで同じ炭酸カルシウムからできています。
面白いことに、藻類でも炭酸カルシウムを作る、石灰化する円石藻という藻類がいますが、実は、円石藻の石灰化がものすごい速度なんです。みんなは、炭酸カルシウムっていうと、貝やサンゴなどを思い浮かべるかもしれませんが、そのスピードは非常にゆっくり。円石藻はその何十倍もの速度で炭酸カルシウムを沈着しているんです。

「円石藻はものすごいスピードで炭酸カルシウムを沈着させているんです」

これは、ちょっと驚きですね。こんな不思議な、オオイシソウと比べても、もっと小さな10マイクロメートルくらいの生き物から1~数マイクロメートルくらいの炭酸カルシウムの結晶が、細胞の中のゴルジ体という細胞小器官で作られるんです。ヒトのスケールで例えてみると、身長160cmのヒトが、20cmもの硬い物体を体の中で作り、外に出して体表にくっつけている状態なんですね。円石藻がこのような大きな結晶を作り、それを細胞の外に放出するという不思議な仕組みをはじめ、石灰化のメカニズムについてはまだまだ不明な点があります。なぜ、どうして円石を作るのかという謎を私の研究室では解き明かそうと研究しています。

円石形成機構

円石藻は光合成により海水中の重炭酸イオン(HCO3)やCO2を取り込んで炭水化物として固定化する。また、円石を作る石灰化は、海水中のHCO3とカルシウムイオン(Ca2+)を使うため、結果的にCO2の固定化につながる。

この円石藻のブルーム(大量繁殖)はすごく、人工衛星から見ると、炭酸カルシウムの反射で海がキラキラと光って見えるくらいです。ということで、このパワフルな生き物を使えば、石灰化によるCO2固定によって、問題となっている地球上のCO2濃度の上昇を抑えることができるかもしれない。また、石灰化を含むバイオミネラリゼーションは、骨や歯など医療材料を含む材料関係の開発にも繋がる魅力的なテーマだと考えていて、今は円石藻を遺伝子レベルで研究しています。

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