公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第1回
幼いころの夢を実現していく
藻類研究者の歩む道

第3章 「おおっ」と「げげっ」が研究の醍醐味

米山
藤原先生は、そもそもなぜ、藻類の研究をやろうと思ったのですか。
藤原
きっかけは偶然の巡り合いですね。私は大学では薬学部の学生で、その当時人気のあったホルモンの研究が面白そうだと思っていました。しかし、研究室を決める際にじゃんけんで負けて、バイオテクノロジーを何でもやるっていう研究室に行き、そこで微細藻類のテーマに出会ったのです。
その頃、限りある資源である石油の代わりとなる原料、代替エネルギーを作ることが注目されていました。それで石油代替エネルギーとして、水素に注目し、それを藻類など、光合成をする微生物に作らせるという研究を始めました。 大学院のときは、もっと基礎的な研究をやりたいと思い、理学部に移り、微細藻類の無機炭素濃縮機構という仕組みについて研究をしました。皆さん、植物の光合成を学校で習うと思うんですけれど、微細藻類の場合は、水の中でどうやってCO2を集めてくるかが大変な問題になるんです。そのために、特別な機構を藻類は持っているのです。
土屋
無機炭素濃縮機構って、どのようなものでしょうか。CO2をもうそこで集めて作ってしまう感じなんですか。集めて、それで光合成を行うのかな。
米山
水中というCO2の少ない環境下で、見つけたら取り込み、ということを繰り返し行うのですか。

先生の研究に興味津々で質問をする二人

藤原
藻類が取り込むのは、実際は水の中に溶けている重炭酸イオンやCO2などの無機炭素と呼ばれる種類の炭素ですね。重炭酸イオンを酵素というタンパク質の力を借りて、細胞膜を透過しやすい形であるCO2に変えたり、重炭酸イオンポンプというタンパク質で直接重炭酸イオンを取り込んだりします。水中にいる藻類にとって一番重要なのは、CO2固定に重要なルビスコという酵素の周りに、CO2が多く存在することです。ルビスコは葉緑体にあります。ですから、無機炭素濃縮機構によって葉緑体にあるルビスコの周りに、CO2を多く集めることが重要です。
大瀧
われわれの生活に研究を応用するという点で質問があります。藻類の性質を生活に活かすときに、どのような点に注目したらよいでしょうか。私もオオイシソウがどのように接着しているのかという実験を行っているので、参考にしたいと思うのですが。
藤原
藻類の一番の利点は、光エネルギーを使えば、光合成でエネルギーを自ら作り出して、生育が活発になることだと思うんですね。他の微生物だと、培養中には栄養として有機物を加えないといけない。ですから、太陽光をできるだけ有効に使うことがいいんじゃないかなと思います。
三橋
研究の内容とは関係ない話になってしまうんですけど。先生がすごい楽しそうに研究の話をしていらっしゃったので、研究をやっていて楽しかったこととか、すごく良かったなって思ったことがあれば、聞きたいです。

「研究をやっていて楽しかったこと、良かったことは?」

藤原
それは、実はみんなと同じですね。仮説を立てて、こうなるだろうと考えていたことが思っていた通りだったら、「おおっ!」と、とてもうれしいですね。それともう一つは、逆に結果がすごく意外だというときです。周りに人がいるのも忘れて、「げげっ!」と口に出してしまうことがあります。こうした体験は多くはないですが、今まで3回くらいはありますね。
三橋
それはどんなときですか。
藤原
1つ目は、シアノバクテリアで水素を生産させる実験を行っていたときです。私は、シアノバクテリアにはヒドロゲナーゼという酵素が2つあって、1つが水素の発生をもう1つが取り込みをする、だからある処理をして取り込みをする酵素の活性だけを抑制すると水素が出るだろうと仮説を立てました。実験してみると、思ったとおりに水素が出て、それが毎日どんどん増え続けたので、びっくりしました。
2つ目は、進化に関する研究です。私は先ほどお話したルビスコという酵素の遺伝子を単離してこようと思ってたんですね。ルビスコの遺伝子は核と葉緑体の2つに分かれて存在している。それが葉緑体で合体して、力を発揮するというのが、緑色植物の常識でした。ところが、私が調べていた二次共生藻では、分かれて存在するはずの遺伝子が両方とも葉緑体にあってつながっていたんですね。それで、「えーっ」とびっくりしました。その後、真核生物がシアノバクテリアを細胞内に取り込む一次共生をした生き物を、さらに別の真核生物が細胞内共生させる二次共生が起こったことが原因だと思い至りました。実は別の二次共生の系統の藻類であるクリプト藻を使って同じことを調べた論文が出ていたのです。私が、世界で初めて見つけた現象ではなかったのですが、そのときは、「こんな生き物がいるんだ」とすごいびっくりしましたね。

「げげっ!と口に出してしまったこと、今まで3回くらいはありますね」

最後、もう1つびっくりしたのは、ヒ素とリン酸の関係についてですね。ヒ素には毒性があり、たいていの生き物を弱らせてしまいますが、藻類の中から、ヒ素耐性のすごく高いミュータント(変異体)がとれたんです。それは、細胞の中にリン酸を取り込む役割のトランスポーターの1つに異常がおこったミュータントでした。なぜリン酸トランスポーターに異常がおこるとヒ素耐性が高いのか…、その原因をよくよく考えてみると、リンとヒ素って化学で習う周期表の中で同じ第15属元素で性質が似ているんです。ですから、普段はリンの酸化物であるリン酸とともに性質の似ているヒ素の酸化物のヒ酸もリン酸トランスポーターによって取り込まれてしまいます。しかし、そのミュータントではリン酸トランスポーターに異常がおこってヒ酸の取り込みが特異的に減少していました。その結果、ヒ素耐性を持つ藻類になったんだということが、後で分かりました。その発見のときは、「げげーっ」と言ってしまいましたね。そういうときが、時々あります。それはすごいうれしいですね。

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