この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第5回 ナノテクを活用して、生命現象を物理的に探究したい 青山学院大学 理工学部 物理数理学科 三井敏之 准教授

本当の科学は教科書の外にある

───高校時代には将来の方向ははっきり見えてきたのですか。

2年生の時に進路に合わせて文科系、理科系に分かれました。私は理系を選択し、物理、化学などはそれほど勉強しなくてもいい点が取れましたね。高校時代に印象に残ったのは、化学の先生でした。先生は学校のまわりの植物や昆虫の写真を撮ってきて、授業の最後の5分間、その写真を私たちに見せながら身のまわりの科学について話をしてくれたのです。
当時の理科の授業は実験も少なく、教科書の内容をただたんたんと教えてくれるものだっただけに、先生が話してくれる花や草、ミツバチなどの話はとても興味深かった。先生は、「実際の科学は、教科書の外にある」と言われた。たとえば、「物理で物が落ちる時、重さにかかわらず落下速度は同じだと教科書には載っているが、キミたちは実際に物が落下するのをその目で見たか?」と問うてくるのです。私は、先生の話から本当のサイエンスとは何かを考えるようになりました。

───高校時代の友人関係はいかがでした?

親しく付き合っていた5、6人がグループをつくっていました。「将来は生物学者になりたい」とか、「医者になって命を助けたい」とか、「地元の山梨で発酵学を学びたい」などと話しあいながら、お互いに刺激しあっていました。こうした知的な志向を同じくする仲間をつくることは、とても大切なことだといまでも感じています。

高校時代 左が三井先生

高校時代 左が三井先生

───大学で物理学を専攻した理由は?

高校のころから科学の本などを読んで、科学の基本は物理にあると思っていました。私たちを取り巻く世界は、原子、分子でできている、宇宙の謎から生物の遺伝や進化にいたるまで、その本質は物理の中にあるのではないかと考えたのです。
専門課程に進んでからは、物理と化学の中間的な学問である物理化学を専攻し、その中でも実験を行う研究室に入りました。当時、物理学の世界で学生に人気があったのは素粒子の世界でした。原子核の中はどうなっているのか、それを突き詰めていくとビッグバン以降の宇宙の成り立ちも解明できるのではと、素粒子研究は憧れの的だったのです。
でも、私は世界を構成しているのは原子や分子で、その構成から生物や生命が発生してくると考え、素粒子より大きい原子、分子の実験を専攻したのです。

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