この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第8回 機械工学も、生命科学の進歩に大きく貢献できるんですよ。 早稲田大学高等研究所 岩崎清隆 准教授

からだの組織から細胞を除去する研究に没頭

───現在はどんな研究をしているんですか。

臓器を移植するときに問題になるのが、他人の臓器は患者さんの臓器とちがうので拒絶反応が起きてしまうことです。移植後の拒絶反応は、かんたんに言うと、患者さんのからだが自分のものではない細胞を異物として攻撃することが原因です。
そこで、私たちは、動物のからだの組織から細胞を取り去って、無細胞化した組織をつくり、それを機能が著しく低下した心臓弁と置換する研究を東邦大学の尾崎重之教授としています。無細胞になった組織を動物に移植すると、移植された動物の細胞が、無細胞処理した組織に入り込んでいくのです。そうすると、人でいうと自分のからだの細胞が入った新しい組織がつくれるため、拒絶反応が起こらないというわけです。

───いったいどんなふうにして、身体の組織から細胞を取り除くのですか。

ブタの心臓弁の組織の中にはイメージでいうとスイカのタネのように細胞が含まれています。組織から細胞を除去するには、化学溶液で細胞を溶かす方法がありますが、細胞を完全に取り去ることがとても難しいとされていました。
私たちは、生体内の心臓弁があるところの拍動流れや拍動血圧変動環境が組織の奥まで科学溶液を運ぶのに重要だと考えて、化学溶液を生体と同様の拍動で流す装置を作りました。また、電子レンジで使っているのと同じ周波数のマイクロ波を使って、化学溶液を組織の奥まで届けようと考えました。そこで化学溶液の中に心臓弁を置き、拍動圧力・流れで処理しながらマイクロ波をあてる装置をつくったのです。心臓弁が高熱で温まってしまうとホルモン焼きみたいになってしまうので、温度を37℃に保つ冷却機をつけたり、マイクロ波を均等にあてるために心臓弁を回転させるなどの工夫を凝らしました。こうして、からだの組織から細胞を完全除去する技術を開発しました。この分野の研究は日進月歩で世界でもしのぎを削って研究が行われていますが、私たちの研究は大変注目されています。

無細胞技術の概要

無細胞技術の概要

───そうやってできた無細胞の組織を実際に移植したことはあるのですか。

大動脈弁という心臓の左心室の出口にある高い圧力が繰り返しかかって壊れやすい弁の治療に使えるようにと考えました。ブタの大動脈弁を無細胞処理して、それを違うブタに移植する手術を東邦大学の尾崎先生が行いました。6か月経って調べたところ、移植した部分の組織に細胞の核を示す黒い点がきれいに入っているのが見えました。つまり、無細胞処理した組織に、移植された動物の細胞が入っている証拠です。
これをヒトに使うとなると、さらに無細胞組織を滅菌して感染症などを引き起こさないように万全の対策をとる必要があり、現在、さらに研究を進めています。

ブタ大動脈弁のヘマトキシリン・エオジン染色像:岩崎先生たちの処理で黒い粒の細胞核を完全に除去(b)。その無細胞組織を動物に移植すると、移植された動物自身の細胞が入ってくることがわかった(c)。

ブタ大動脈弁のヘマトキシリン・エオジン染色像:岩崎先生たちの処理で黒い粒の細胞核を完全に除去(b)。その無細胞組織を動物に移植すると、移植された動物自身の細胞が入ってくることがわかった(c)。

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