この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第8回 機械工学も、生命科学の進歩に大きく貢献できるんですよ。 早稲田大学高等研究所 岩崎清隆 准教授

細胞の気持ちになって研究をすることが大事

───研究活動をしていて、とくに心がけていらっしゃることがありますか。

私たちの研究は、細胞を人体の外に取り出してインキュベーターで培養したりしています。そのとき、「細胞の気持ちになってあげる」ことがとても大切なのではないかと思うようになりました。細胞にとっては、体内とインキュベーターでは酸素濃度も違ったりしますから、それまで住んでいたからだの中から取り出されて、きっと異国に連れてこられたように感じているに違いない。外に出された細胞にとって、どんな環境がいちばん過ごしやすいか、生きやすいかを研究者としてしっかり考え、その環境をできるだけ実現する努力をすることが大切なんだと……。

───海外での研究体験についてはいかがですか。

それまで行っていた、機械工学によって細胞を取り除いたり育てたりする研究などについて、2003年の12月に国際組織工学会で研究発表を行ったんです。そうしたら、この「生命科学DOKIDOKI 研究室」でも登場したハーバード大学の小島宏司准教授が関心をもってくれて、組織工学の第一人者であるバカンティ教授に「面白い研究がある」と紹介してくれたんです。
バカンティ教授が見に来てくれてその研究を気に入ってくれ、即座にハーバード大学に誘ってくださいました。当時梅津先生の研究室で多くの学生の指導をしていたのですぐには行けなかったのに、研究室を1部屋あけて待っていてくれたんです。嬉しかったですね。
バカンティ教授,小島准教授と研究を一緒にさせていただいて、教授らもやはり「細胞の気持ちになる」ことの大切さを感じておられたようで、そういう意味でも共感することができました。
そうそう、あるとき、教授に招待されてご自宅に伺ったのですが、その邸宅のすごさにびっくり。対岸まで泳げないような広さの池やサッカー場まであるんです(笑)。
ボストンから車で1時間のところにこんなに広大な邸宅を構えるなんて、アメリカの研究者は日本と違うなあと思いましたね。

バカンティ先生のご自宅で

バカンティ先生のご自宅で

体内の拍動刺激と化学的刺激を模倣する培養装置を開発。徐々に拍動刺激を大きくしていき、細胞と体内分解吸収性高分子から血管を創ることに成功。右:体内の血液循環を模倣した拍動圧力・流量・拍動数と酸素・二酸化炭素・pHを自由に制御可能な培養装置を開発:血液の代わりに培養液を循環。左:独自の培養装置で創った血管。動脈血管と同様に層状で同等の強度を有する。

体内の拍動刺激と化学的刺激を模倣する培養装置を開発。徐々に拍動刺激を大きくしていき、細胞と体内分解吸収性高分子から血管を創ることに成功。
左:体内の血液循環を模倣した拍動圧力・流量・拍動数と酸素・二酸化炭素・pHを自由に制御可能な培養装置を開発:血液の代わりに培養液を循環。
右:独自の培養装置で創った血管。動脈血管と同様に層状で同等の強度を有する。

───生命科学分野の研究をしたいと考えている高校生にアドバイスをいただけますか。

まず、スポーツでもなんでも一生懸命やること。人生には無駄なことは一つもないと思う。どんな形でも必ず後からプラスになります。それから、現代の医療は医学と工学が密接に結び付いているので、これからは医学部に進路をとらなくても、医療に貢献できる可能性が大いにあります。私のようにバックボーンはあくまで工学でも、次世代医療の開発に携わることができるんです。
いまEBM(Evidence Based Medicine)、つまり根拠に基づいた医療の重要性がいわれていますが、梅津先生ともに私たちがやっているのは、アナザーEBM、Engineering Based Medicineだと考えています。Engineeringの発想で、性能を評価したり、有効性を検証したり、医療の標準化に貢献できるわけです。重要なことは、自分で医学とか生物学とか工学とか、垣根をつくらないことだと思いますよ。

(2010年11月8日取材)

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