この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第13回 三次元造形によるオーダーメイドの人工骨再生に挑む。 東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻  鄭 雄一 専攻長・教授

実際の治療に役立つ新しい医療機器を開発したい

───中高生に向けてメッセージをお願いします。

そのときはそれほど意味を感じなくても、学校で習う知識はしっかり勉強して身につけておくことが大事だと思います。化学の周期表など味気ないといえば味気ないけれど、こういった基本となる知識は丸暗記してでも覚えてしまうこと。
よく問題解決力が大切だとか、創造力が重要だと言いますが、基礎知識がないと、ほかの応用的な知識と結びつけることができません。
それと、語学はやっておいた方がいいですね。母国語以外に最低一つマスターしておきたい。言葉を学ぶことは文化を学ぶことでもあり、語学を通じて水平的なものの見方というか、たとえば、ある国で正しいと言われていることが、他の国ではそうではないなど、相対的なものの見方ができるようになります。
私は、DNAも一種の言葉だと考えているんですよ。ヒトを含めて生き物はタンパク質によって構成されていますが、DNAはそのタンパク質をつくるためのアミノ酸の塩基配列を決定します。そのとき、3文字が一組になってどんなアミノ酸なのかを指定する暗号となっているわけで、いわば塩基配列から言葉が紡ぎだされているのです。

───これから研究者の道を進む場合、どんなことに気をつければよいでしょうか。

いま、いちばん人気があり注目されている分野の研究より、自分だけのユニークな貢献ができる分野に目を向けることですね。注目されている分野は誰かがいずれはやると思いますので。世の中のはやり、流行とは異なる分野に目を向けて、ユニークな研究をしてほしいな。

───これから力を入れたい研究テーマはありますか。

まだ世に出ていない医療機器を5つぐらい提案したいですね。手術の術後の癒着防止とか、気管内にチューブを挿入するときに喉の粘膜を傷めない手法や、アトピーを治療するものなど、薬でなく、工学的な手法で細胞や組織をコーティングすることで治療に貢献するものを開発して、患者さんの役に立ちたい。
私の信念は、医学は実学であるということです。どんなに学会で名声を得たり、賞をもらったりしても、実際に薬や医療機器を世に出し、新しい診断や治療方法を生みだしていなければ、医学者としては本当の意味で評価されないと思っています。

(2011年9月5日取材)

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