この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第16回 生命の根幹を支える生殖細胞の発生のメカニズムを解き明かしたい。京都大学大学院 医学研究科 機能微細形態学教授 斎藤 通紀

ES細胞やiPS細胞から作った生殖細胞で、マウスの赤ちゃんが誕生

───それからどんな研究を進めていったのですか。
始原生殖細胞様細胞由来の精子によるマウスの新生仔

始原生殖細胞様細胞由来の精子によるマウスの新生仔

この遺伝子の発見で、自分の研究が一気に広がる感触を得ました。そんなときに、理化学研究所で若手研究者にも独立した権限を与えてくれる環境がスタートしたことを知り、日本に戻って研究を進めました。
独自に開発した遺伝子解析手法を用いて、Blimp1以外に、始原生殖細胞の形成に欠かせない遺伝子Prdm14を見つけました。こうして始原生殖細胞が形成される過程で起きているさまざまな現象も次々にわかってきました。
研究をさらに進めるためには、始原生殖細胞がつくられたあと、どのように生殖細胞になるか、発生のプロセスを実際に観察してみたいと考えましたが、とくに哺乳類の生殖細胞は、数も少なく、動きも激しい。そこで、京都大学に移ってからは、ES細胞やiPS細胞から試験管の中で始原生殖細胞をつくる研究に取り組んできました。
ES細胞やiPS細胞に細胞分化を促すタンパク質などを加え、将来胚となる原始外胚葉様細胞を誘導することに成功し、この細胞に、これまでに突き止めた始原生殖細胞への分化を誘導する物質を与えて培養したところ、始原生殖細胞を誘導することに成功しました。
2010年の春には、誘導した始原生殖様細胞を、精子を持たないマウスの精巣に戻して精子を得ました。体外授精したところ、正常なマウスの赤ちゃんが生まれたんですよ。

───先生のこの一連の研究はどんな可能性を持っているのですか。

生殖細胞をつくりだすことができれば、まず、不妊や遺伝病の原因解明に役立ちます。また、エピジェネティック制御や、ゲノム・リプログラミングの機構の解明が進めば、細胞の増殖や分化を自由に制御できるようになる可能性があります。医学的に重要な細胞を安全に増やす技術開発の基盤になりますし、がんなどさまざまな病気の治療や予防医療に大きく貢献すると見ています。

───今後のテーマは何ですか。

生殖細胞の形成機構をさらに探究することによって、今お話しした今後の可能性を現実のものとしていきたいと考えています。また、同じ哺乳類でも、マウスとヒトでは初期胚の発生メカニズムが肝心なところで大きく異なっていますので、ヒトに近い霊長類での研究が必要です。そこで、滋賀医大の研究グループと、カニクイザルを使った共同研究を始める予定です。

───最後に、中高校生にメッセージをいただけますか。

自分の可能性を信じて、自分のしたい仕事に飛び込んでいってほしいと思います。私自身の経験でいうと、今の社会はやりたいと思うことができる環境が整えられていると思います。将来の夢を大切にして思い切って挑戦することです。
サイエンスの分野ではまだまだ未解明な謎、できそうでできないことがたくさんあります。私たちは自然という中に生きていて、人間の活動も自然科学の上に成り立っています。その原理や真理をひとつずつ解いていくのが研究の醍醐味です。
そのためにも、中学・高校生時代は、古文、地理、世界史、物理など、どんな教科でも勉強して幅広い視野を身につけておくといい。私が師事した月田先生は、「広く学ぶことによって、将来自分の目の前を宝物が通り過ぎたとき、これが自分にとって大事だということがわかる」とおっしゃっていました。正にその通りだと思いますね。

(2012年2月16日取材)

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