この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第16回 生命の根幹を支える生殖細胞の発生のメカニズムを解き明かしたい。京都大学大学院 医学研究科 機能微細形態学教授 斎藤 通紀

この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」 第16回 生命の根幹を支える生殖細胞の発生のメカニズムを解き明かしたい。 京都大学大学院 医学研究科 機能微細形態学教授 斎藤 通紀

Profile

斎藤通紀(さいとう・みちのり)
1995年京都大学医学部卒業。1999年京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。その後ポスドクとして、英国ウェルカムトラスト発生生物学・がん研究所にてマウスの生殖細胞の形成・確立機構の研究を開始。2003年 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 哺乳類生殖細胞研究チーム・チームリーダー。2009年より京都大学大学院医学研究科教授。2011年より、科学技術振興機構ERATO研究 研究総括。研究テーマは哺乳類における生殖細胞形成機構の解明とその試験管内再構成。

profile
水辺のタガメに夢中になった昆虫少年は、宇宙に思いをはせ、環境保護を考え、自分探しの旅を続けた。そして、命を伝え続ける生殖細胞の謎に迫ろうと、研究者への道を歩み始めた。これまでとても難しいと考えられていたES細胞やiPS細胞から生殖細胞をつくりだすことに成功するなど、画期的な研究成果を次々に上げている。斎藤先生の一連の研究は、生命科学や再生医療の発展にどんな意味を持っているのだろうか。

自然や宇宙に興味を持っていた子ども時代

───子どもの頃はどんな遊びをして過ごしたのですか。
嵐山にて

嵐山にて

兵庫県の尼崎市で育ちました。当時はまだあちこちに自然が残っていて、カブトムシやクワガタムシなどを捕って遊んでいました。中でも好きだったのは水の中や水辺に生息している昆虫です。たんぼやため池には小魚、沼エビなどのほかにタガメなどの肉食の水生昆虫がいました。タガメは、カマキリのような大きなカマを持っていて、自分より大きなトノサマガエルなどを捕まえて、血を吸うんです。こういうのを見るのが好きでしたねえ(笑)。
ただ、この頃から農薬の影響でタガメなどが激減し、図鑑やテレビでしか見られない時代になってきたのですから、そういう意味ではまだ恵まれた環境で育ったといえるかもしれません。

───科学者になりたいなどとは思わなかったのですか。

よく天文学の本などを読んで宇宙には興味を持っていました。ちょうど赤塚不二夫の「ニャロメのおもしろ宇宙論」という本が出版されて、「宇宙の果てはどうなっているんだろう」なんて考えたものです。宇宙科学だけでなく、「自分って何だろう」とか「死んだらどうなるんだろう」などと、人間の存在についても考えていましたね。なぜか理由はわからないけれど、10歳になったら自分はもう年寄りだと考えていて、「10歳になったら終わりやな、死んだら真っ暗闇だ、おそろしいなあ」なんて思ったものです(笑)。

中学3年。先輩と旅行

中学3年。先輩と旅行

小学校高学年になると、ちょうど受験戦争が始まった時代で、親戚のお兄ちゃんが塾に通って進学校に入った話を聞きつけた母に、「あんたもやりなさい」といわれて、塾に通って勉強して、ちょうど近くだった、進学校で有名な灘中学に入りました。
中学生になると宇宙物理学などにまた興味を持って、その関係の本を読み漁ったのですが、宇宙についての学問って、人の気配がしないさみしい学問なんだなあって思って(笑)、もう少し人の気配がする学問がいいと考えるようになりました。

───それで、生物学などに興味を持ったわけですか。

ええ、ちょうど東京大学の時実利彦先生の「脳の話」が岩波新書で出ていて、それを読んだら非常におもしろく、神経生物学に興味を持ったんです。カマキリは神経節を複数持っていて、頭がなくなっても動く機械のようなものだということが書かれていて、では人間も機械みたいなものなのかと思って衝撃を受けました。
あの頃はよく本を読んでいましたね。森林などの生態学の本やサル学、京都大学の今西錦司や桑原武夫はじめ、山岳部や探検部、人文科学研究所の学者の本とか・・。中間や期末試験が終わると、本屋に飛んで行って、本を買うのが楽しみでした。

───高校時代は勉強一筋だったのですか。
ダンクのまね

ダンクのまね

いいえ、灘校は進学校として知られてはいますが、ガリ勉をする高校ではなく、のびのびしていましたよ。バスケット部に入って部活も楽しんでいました。
理系はどの教科も好きでしたが、世界史なんかも好きでしたね。板書はほんのちょっとだけで機関銃みたいにしゃべりまくる先生の話を、全部必死にノートに取って(講義のあとはくたくたでした)、試験前に清書してみんなに配って人気があったんですが、途中でそれをワープロでやる生徒が出てきてそっちのほうが好評で「ワープロ派に負けた!」と悔しがったり(笑)。

───大学選びはいかがでしたか。

高2のときには理系に進もうということは決めていました。でも研究者は、ニュートンとかアインシュタインとかの天才がなるものだと思っていて、自分がなれるというリアリティはまったくなかった。では将来どんな仕事をしようかと考えたときに、自然がどんどん少なくなっていることが悲しくて、農学部や理学部に進んで、国連に入って自然保護活動などをやってみたいと考えたんです。
でも親に相談したら、「そんな役にも立たないことを考えていないで医者にでもなれ」って(笑)。そこで自分のやりたいことをもう一度考えてみると、生物学のほかに、脳や神経にも興味がある。それならば医学部に行けばより深く学べるし、チャレンジングではないか。京都大学も好きだし、京大の医学部に進学しようと決めました。

PAGE TOPへ
ALUSES mail