この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

第26回 ブラックジャックのカッコ良さにあこがれて外科医を目指す 横浜市立大学大学院医学研究科・臓器再生医学 谷口英樹教授

Profile

谷口 英樹(たにぐち・ひでき)
1963年山口生まれ。1989年筑波大学医学専門群卒業。同年、同大学附属病院医員(外科研修医)。95年同大学大学院博士課程修了。同年、日本学術振興会特別研究員。97年、同大学臨床医学系講師(外科)。2002年、横浜市立大学医学部教授。2003年より同大大学院医学研究科臓器再生医学教授。2003年~2008年、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター研究ユニットリーダー併任。専門は再生医学、移植外科学。

profile
中学時代は弁護士志望の少年だった谷口先生。高校時代に『ガン回廊の朝』に感動し、『ブラックジャック』の天才外科医に憧れ、外科医の道を選択したという。臨床医と研究者を両立させながら、いま、ヒトiPS細胞を使ってマウスの体内で肝臓組織へと成長させることに成功。iPS細胞から血管網を持つ機能的なヒトの臓器を初めてつくったと注目を集めている。

探検家の伝記に胸を躍らせる

───どんな子ども時代を過ごしたのでしょう。

生まれたのは山口県の防府市で、小学校に入る直前までそこで育ちました。防府市は毛利氏ゆかりの街で、小さい頃から幕末に活躍した長州藩についての話を聞かされて育ちました。その後島根県に引っ越して、小中高と松江市で過ごすことになりました。
小学生の頃は缶けり、野球、基地づくりに夢中になって遊ぶ普通の子どもでしたよ。ただ、本は好きでした。なかでもマゼラン、アムンゼンなどの探検家の伝記を読むのが好きで、誰も行ったことがないところにチームを組んで挑戦し、目標を達成する冒険譚に胸を躍らせたものでした。
考えてみると、そうした冒険譚は、人のやったことのない研究分野にアタックしたい、他人と違ったことをしたいという今の私につながっているような気がしますね。

───山口県から島根県に移ったことで印象に残ったことは。

島根県は冬の間、青い空がなかなか見られず、最初の頃は寒々しい感じがしたものです。防府市は瀬戸内海に面しているので、冬場は基本的に晴れていますからね。母親は山口県人としてのプライドが強かったので、防府に帰りたいとよくこぼしていました。もっとも子どもだったので、すぐなじみましたが。

───中学生の頃、好きな学科はありましたか。

中学生までは文科系が好きで、特に社会、その中でも日本史に興味がありました。とりわけ戦国時代と幕末がおもしろかった。激動の時代、さまざまなチャンスがあった時代ですよね。そうした乱世が好きだったのは、他人が敷いた決められたレールの上に乗って成功してもおもしろくないという私なりの人生観に合っていたからだと思います。
旅をするにしても、パックツアーのような「旅行」は好きではなく、どちらかというと「漂白の旅」のほうが好きでした。気の向くままに自由に歩き回りたい。大学時代には、ガイドブックには出ていないところに行ってみようと、バックパックひとつで日本は北から南まで、またポルトガル-スペインからギリシャ、トルコへと旅したものです。

───将来はどんな仕事に就きたいと考えていたのですか。

弁護士か裁判官になりたいと考えていました。たしか公民の授業で、検事と弁護士に分かれて模擬裁判で論戦する機会があり、私は検事役にまわって熱弁をふるったところ、先生にほめられ「君は将来何になりたいと思っているんだ」と聞かれて「司法関係」と答えたら「やっぱりそうか!」と言われ、大いにその気になったんです。
ところが、どうもその頃から少し色気が出てきて、「司法関係に進んでも女性との出会いが恵まれているとは限らないな」と、そちらのほうが気になってきた(笑)。
両親からはずっと医者になれと言われていて、調べてみると司法関係より女性と出会うチャンスが多そうだし、高校は理数科に進学することを決めました。

───高校のときは医学部に絞っていたのですか。

私が通っていた松江北高校は、松江城の東側に位置し、近くに作家・小泉八雲の旧居や武家屋敷がある130年以上の歴史を持つ高校です。県内有数の進学校で、37人のクラスの中で30人が医学部に進学するという環境だったんですよ。だからごく普通に医学部を目指そうという気持ちになりました。
それと、当時、ノンフィクションライターの柳田邦夫が書いた『ガン回廊の朝』を読んで感動したこと、また手塚治虫の描く天才的な外科医が主人公の『ブラックジャック』に感化されて、「誰もできない手術をやったらカッコいいだろうな。よし、外科医になろう」なんて思っていたんです。だから、人類に役立とうなんて高邁な理想から医者を志したわけじゃなかった(笑)。

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