この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

「個体」を「創る」研究にも力を入れたい

───これからの研究テーマについて教えてください。

私は2000年にシステムバイオロジーが立ち上がっていくところから参加してきたのですが、分子と細胞間の関係の解明はかなり進んできたので、今その先に向けて研究を進めるところに立っていると感じています。
方向性としては2つあります。一つは、細胞と個体など、より高次の階層での概日時計のメカニズムを探ること。もう一つは、概日時計を創る、つまり細胞機能をつくる・操るといった方向性です。当初この2つは正反対のベクトルだと思っていたのですが、創る技術を用いて個体のメカニズムを探っていくこともできることに気づき、2つはお互いに矛盾しないのではないかと思い始めています。
2005年に私は他の研究者たちとともに「細胞を創る」研究会を立ち上げました。先ほどお話ししたように、私は「生命とは何か」という問題に関心を持ち続けてきました。こうした「細胞を創る」研究から「生命とは何か」という問題に対する答えの一端が見えてくるのではないかと考えています。

───先生は海外に留学せずに理化学研究所を中心に研究を続けてきたわけですが、海外での研究生活は必要ないと思われますか。

私たちの世代は、何か学びに海外に行くという発想をとらない研究者が多くなっているような気がします。私たちより1~2世代前の研究者にとっては、正しいもの、新しいものは海外にあって、それを学びに行ってこそ一流と考えられていたかもしれませんが、今の若い世代は、新しいものは自分たちで創り出そうという思いを持っています。日本でこれだけの施設があり、情報も取れるので、あえて海外に留学する必要はないのではないでしょうか。
もちろん、日本で研究者としての業績をあげ、海外で自分のラボなどを開くなら別です。海外に留学して日本に帰ってくるというのではなく、海外で研究の足場を固める。これからはそんな例が増えていくかもしれませんね。
今は海外からの共同研究のオファーも多く、どこにいても第一線の研究ができると思います。

───先生が研究生活で大事にしていることは?

まずバイアスなく考えて出てきた仮説を大事にしています。仮説を出していくときはものすごい楽観主義ですが、いったん仮説通りの答えが出たときは気をつけます(笑)。温度変化の影響を受けない酵素を解明したときも、あまりに仮説通りのきれいな系で出てきたので、用心してさまざまな角度からデータをチェックし、他の人に再現実験を依頼するなど、検証に4年をかけました。

───数々の論文を発表していますが、これが重要だという研究はありますか。

うーん、論文はどれも我が子みたいで可愛いんです(笑)。子供が一人一人違うように、論文も一つ一つ違いますね。その結果が照らし出す真実になるべく近付けるようにこれからもなるべく毎回違うスタイルで書いていきたいですね。

───最後に、中高校生へのメッセージをお願いします。

私自身、高校生の時に考えた答えが出ないような疑問を大切にし、その延長線上で研究をしているつもりです。ナイーブな疑問に真摯に取り組み、そこから広がる世界を見つけてほしい。そういう問題を考えることはすごくきついとは思いますが、ぜひ考え続けてほしい。答えは世界のどこかにあるのではなく、自分の内側にしかないと言いたいですね。

(2014年2月19日取材)

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