公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

愚直に一歩一歩、研究に取り組む

一二三先生はその後も、免疫工学、タンパク質工学、遺伝子工学的手法を駆使しながら、スーパー抗体酵素のメカニズムや、標的として選んだタンパク質分子に対する分解機能をもつ抗体酵素を大量に作製し応用展開する研究などに取り組んできた。

———今後の研究で特に力を入れたいことは?

通常の抗体は抗原と出会っても結合するのみですが、そのうちの一部にハサミを隠し持っているものがあって、それがスーパー抗体酵素です。当初、私たちは、偶然ハサミを持つ構造をとってしまった抗体がいたんだろうと思っていましたが、今はそうではなく、抗体の中に潜在的にこういう機能を持つものが一定の割合でいるのではないかと考えています。

抗体の構造でYの字の先端部分は、ヒトが生まれて死ぬまでの間に出会うであろういろんな抗原に対応できるような仕組みを備えていて、利根川進博士が、遺伝子の部品をランダムに寄木細工のように組み合わせて遺伝子を再構築するという原理を発見しノーベル生理学・医学賞を受賞されました。しかし、考えてみると「寄木細工の元」をイチから作るのは大変です。「寄木細工の元」の中には、もともと酵素の遺伝子(ハサミの設計図)だったものがあるのではないかと。今は、そういった遺伝子(ハサミの設計図を含んだ遺伝子)が選ばれて抗体遺伝子が完成することで、スーパー抗体酵素ができあがるのではないかと考えています。ゆくゆくは、ねらい通りの抗原を切断するハサミを持つ抗体をオーダーメイドで自由自在につくりたいわけですが、まずは、ハサミの種類と抗体の関係や機能を整理して、目的に合ったスーパー抗体酵素を作製するノウハウを確立したいと考えています。

———スーパー抗体酵素が隠し持つハサミにもいろいろな種類があるのですね。

布を切るのが得意なハサミと、紙を切るのが得意なハサミがあるでしょ。それと一緒で、何を退治するのが得意なのか、遺伝子を調べてライブラリとして整理しておくと、目的に合ったものを見つけやすくなるはずです。
現在、ハサミがどんな形をしているのかを化学的に捉えるために、結晶構造解析の専門家と共同研究を進めています。

———基礎のところに注力することで、臨床応用も見えてくるということでしょうか。

もちろん実用化をめざす取り組みも重要で、ことに近年は応用面にスポットが当たりがちではあるのですが、やはり研究というのは、ある程度進んだ時点でもう一度立ち止まってきちんと整理しておかなければいけない、ということがあるものです。急がば回れということわざもある通り、遮二無二突き進んでいくと痛い目にあうような気がして、土地をちゃんと耕すということが、将来につながるのではないかと思っています。
実用化を進めていく上でも、バックグラウンドにこういう科学的な根拠があって、だからこのように機能する、ということが説明できれば、定説を覆す現象であっても理解できるはず。新しい抗体をつくり出すテクノロジーはすでに確立されていますから、スーパー抗体酵素の個性をきちんと踏まえて、これまでにない作用機序の治療薬のヒントを提示したいですね。
また、スーパー抗体酵素がどうして登場したのかを、生物の進化とともに追ってみたいとも考えていて、やりたいことが次々に出てくるのは幸せですね。

———最後に、若い読者にメッセージをお願いします。

うーん、私の経歴は研究者としては異質だし、「気づいたら研究者になっていた」という感じでお手本にはならないから困っちゃったな・・・。とにかく、一つひとつ丁寧に、ということを積み重ねてここまで来た感じなんですよ。それは、実験(仕事)についても、周囲の方々との関係についても、です。周囲の方々との関係を大切にしながら目の前の課題に真摯に向き合い、一生懸命に取り組んでいれば、知らず知らずのうちにチャンスを与えられて、可能性も広がっていくのだと感じています。ですから、思い描く理想像を自分自身に当てはめて、頭の中だけで満足したり、簡単に諦めたりしないでほしい。自分にできることをきちんとやっていくことが、何よりも大切だと思います。

(2017年4月18日取材)

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