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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第61回 魚をこよなく愛するからこそサバにマグロを産ませる壮大な挑戦 東京海洋大学 海洋科学技術研究科 教授 吉崎 悟朗

サバを代理の親としてマグロを増やす研究をしているのが吉崎先生。乱獲がたたって急激に数が減っているクロマグロ。食べられなくなったら大変!と養殖で増やす動きも盛んだが、養殖ではなく、マグロから採取した生殖細胞をサバに移植して、サバが産んでくれたクロマグロの稚魚を大海原に放流しようというビッグな計画だ。先生の発想の原点と研究の展開をうかがった。

profile

吉崎 悟朗(よしざき・ごろう)
1966年神奈川県生まれ。93年東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学研究科博士課程修了。水産学博士。同年米国テキサス工科大学農学部博士研究員。95年東京水産大学水産学部助手。2003年東京海洋大学海洋科学部准教授。12年より現職。15年日本水産学会賞。17年日本農学会日本農学賞、読売農学賞。主著に『サバからマグロが産まれる!?』(岩波科学ライブラリー)。趣味は釣り。時間が取れる週末は、釣り竿を片手に自家用ボートで大海原に漕ぎ出す。
吉崎研究室HP:http://www2.kaiyodai.ac.jp/~goro/index.html

小学4年で虜になった魚釣り

———魚との最初の出会いは?

小学4年のときの魚釣りがきっかけです。生まれも育ちも鎌倉で、夏休みは毎日、友だちと海に泳ぎに行ってました。ところが小学校4年生の夏に中耳炎で耳を悪くして、水泳は禁止。家族で海に遊びに行っても泳ぐことができない。することがなくて初めて釣りをしたんです。最初に釣ったのがクサフグという体長10cmぐらいの緑色のフグ。潮溜りの中にいたハゼの仲間のドロメなんかも釣りました。どれも小さな魚だったけど、とても新鮮な遊びで、たちまち虜になりました。

———釣りのどこに惹かれたのですか。

もちろんぼくもセミを追いかけたり、カブトムシやクワガタを捕ったりして遊んだんです。でもセミやカブトムシ、クワガタは木に止まっているのを捕まえるもの。虫が止まりそうな木を見つけることが大事で、あとはいかに人より早く起きてそこに行くかが勝負ですが、魚釣りは海の中で動いている生き物を捕まえる。そこがぼくにすごく響いたんだろうと思いますね。

———止まっているものより動いているものを捕まえることに魅力を感じた、と。

研究者や学生と付き合っていていつも思うのは、縄文人と弥生人の2つのタイプがいるんですよ。マンモスを見つけると後ろから槍を持って追いかけたくなるのが縄文人なら、畑に種をまいてじっくり水をやって芽が出てきたことを喜ぶのが弥生人で、ぼくは典型的な縄文人なんです。

———すると、それからはひたすら魚を追いかけていた?

子ども向けの魚の図鑑に「関東沿岸の魚たち」という見開きのページがありました。小学校のときの目標は、そのページにある魚を全部釣ること。20種ぐらいあったんじゃないかな。フグとかゴンズイとか、釣ってもうれしくない魚もあったけど、イシダイとかマダイ、カレイ、シロギスなども含まれていて、それを1種類ずつ釣っていったんです。

初めてワカサギの穴釣りに挑戦

———すべて制覇できたんですか?

釣りを始めた4年生の半年間ぐらいのうちにほとんどを釣り上げましたが、がんばってもがんばっても釣れなかったのがクロダイでした。マダイは釣れたけどクロダイはダメ。だから小学校を卒業するまでの毎週末、ほかの魚には見向きもせずにクロダイ釣りです。

———クロダイを釣ったのはいつですか?

忘れもしない小学校6年生の2月のころ。初めてクロダイを釣り上げました。釣ってからタモ網に入れるまで足の震えが止まらなかったことを覚えています。それがクロダイとの最初の出会いで、中学生のときもひたすらクロダイ釣りにはまっていて、高校に入っても最初のころはクロダイ釣りでしたね。

念願のクロダイを仕留める

———そこまではまってしまった釣りの魅力とは何でしょう?

ゲームと同じですよ。潮を見て、天気を見て、季節を見て、この時期は産卵期だから魚がこういうところに集まってくるとか、産卵が終わった時期ならたぶんこういうところでエサを食べるはずだとか、彼らのいる場所、食べるエサを予想して、工夫して、釣れたらビンゴ!

———釣りをしているときは何を考えてますか?

みなさん、釣りって待っているイメージが強いんだけど、ぼくらは竿を持っている間、ずーっと考えているんです。あともう少しで魚がこのポイントに来るはずだとか、今、魚は来てるけど餌を食べていないだけだからどんな策を講ずるべきかとか、頭の中は忙しく働いている。釣りに行って頭を真っ白にした、などということはなくて、釣りをしながらずっといろんなことを考えているんです。今になって思うと、研究と非常によく似てますね。

———いったい、どこが似ているんですか。

仮説を立てて、それを実験などで証明して、仮説と答えが合ったときに「ヨッシャ!」と思う。まったく一緒です。

———高校時代もずっと追いかける対象は海の魚ですか?

高校1年生のころまではクロダイ釣りでしたが、やがて岸から釣れる海の魚はだいたい釣ったという気分になって、次にはまったのがサケマスの仲間のヤマメやイワナですね。山の奥の渓流のさらに上流に行かないといないわけで、鎌倉からは非常にアクセスしづらい場所に棲んでいます。そこでオートバイの免許を取り、オフロードバイクで山の中に釣りに行くようになりました。それまでは海岸まで自転車で通っていたので、翼を手に入れた気分でしたね。

高校時代、バイクを手に入れて出かけた芦ノ湖で