中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

絶滅種の復活、希少種の保護にも応用可能

ここで、二つの選択肢がある。一つはロシアのマンモス博物館に冷凍保存されているマンモスの脚から、ラザレフ博士が持ってきた切れ端よりも状態の良い皮膚片をもう一度日本に持ってくること。もう一つは、再度シベリアの凍土地帯に調査隊を送り、さらに「状態のよい、できれば一頭がそのまま凍結されているマンモスを掘り出すことだ。
「脚とか、頭とかの部分が発掘されるということは、川に流されたりして切断されているということです。その間にDNAが損傷を受けている可能性が高い。たとえ子どものマンモスであったとしても、まるまる一頭が発掘できれば、きれいなDNAを抽出することができるのです。ただし、もう一度調査隊を組んでシベリアに出かけるとなると、千万単位の資金が必要になりますが……」
現実的な方法としては、マンモス博物館で冷凍保存しているマンモスの脚全部を日本に持ってくることだと入谷教授は考えている。それは、マンモスの核を取り出す技術が2002年当時と比較しても飛躍的に進んでいるからだ。
こうしたなか、2008年にマンモス復活につながる技術開発のニュースが発表された。(独)理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若林照彦チームが、マイナス20℃で16年間保存されていたマウスの死体から核を傷つけずに取り出すことに成功し、さらに核を卵子に移植する方法を開発、4匹のクローンマウスを誕生させたのだ。
つまり、冷凍死体を使って実際にクローンマウスがつくれることを実証したのだ。
「このニュースを聞いて、生命科学技術の進歩はすごいとあらためて思いました。クローン技術や万能細胞などのライフサイエンス分野の技術の進歩は、これまで不可能と思われていたことを可能にします。氷点下20度の環境は、永久凍土とほぼ同じです。良質のマンモスの核さえ手に入れば、マンモス復活ももう決して夢物語ではなくなっているのです」と、入谷教授は語る。
「早ければほんの数年先に私たちは死んだマンモスではなく、生き生きと動き回るマンモスを見ることができるかもしれません。よくマンモスは寒冷地帯でないと生きられないと誤解している人が多いけれど、実のところ現在の日本の気温は、マンモスが生きていた時代の気温と同じなんですよ」

いま、温暖化や人間による捕獲などで絶滅寸前の動物種が増えている。マンモスの復活を目指す研究は、こうした絶滅種の復活や希少種の保存にも大いに役立つと期待できると入谷教授は言う。
「私は、動物園などで死亡した希少種の精子や卵子を凍結保存しておけば、後で顕微授精によってその種が存続できると考え、主要動物園に呼び掛けて遺伝子の保存に取り組んできました。その延長線でマンモスの復活計画にも参加したわけですが、1万年前の動物はともかくとして、人類が自分たちのエゴで絶滅させてしまった動物を、再び復活させることは人類の責務でもあると思うのです」

動物を絶滅から救おう!

(2009年9月7日取材)

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