中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

保存状態のよいマンモスの凍結組織がほしい

マンモスの脚はすぐにヤクーツクにある「マンモス博物館」に運び込まれ、マイナス25℃の低温で保存されることになった。それから1年後の2003年8月、マンモス博物館の館長ラザレフ博士がマイナス80℃の保管ケースにマンモスの脚を入れ日本に運んできた。脚は近畿大学先端技術総合研究所のやはりマイナス80℃の冷凍庫に保管された。

採取されたマンモスの脚の組織片。左 皮膚 中央 筋肉 右 骨髄付き骨格

採取されたマンモスの脚の組織片。左 皮膚 中央 筋肉 右 骨髄付き骨格

「問題は、細胞の中の核が損傷していないかということでした。細胞にはたくさんの水が含まれており、凍る際に氷の結晶が細胞や中の核を壊してしまいます。ましてや1万年も前です。私はラザレフが保存状態のよい部位を持ってきてくれることを期待していたのですが、彼が持ってきたのは、えぐり取った切れ端だったのです。こうした切れ端ではきれいなDNAは取ることができないと思ったのですが、とにかくやってみようと精製し、マウスの卵子に注入してみました」
しかし、入谷教授が予想したようにマウスの卵子に入れた核は何の変化も起こさなかった。やはり、DNAは損傷を受けていたのだ。そんなことから、一度は切れ端からのDNAの取り出しをあきらめた入谷教授だったが、さらに粘り強く、DNAの抽出と修復に力を注いでいった。
「研究室のスタッフとともに、マンモスの切れ端を粉々に砕いて細かくして、セパレーターにかけ、顕微鏡で見ながらより分けていくと、ほんの数パーセントではあったけれど、核がしっかりしたものがあることがわかったのです。実際にこの核を使ってマンモスを復活させることはできないけれど、保存状態がいまひとつのものからでもきれいな核を抽出することができるなら、たとえばマンモス一頭がまるまる凍土から掘り出されれば、マンモスの赤ちゃん誕生の可能性はぐんと高まります」
入谷教授や研究室のスタッフは、「マンモス復活の夢が再び現実になる」と胸を躍らせたのだった。

薄切りにして着色した組織片 A 皮膚 B 筋肉 C 骨髄(100倍)D 骨髄(400倍)。筋肉中には多くの細胞核があり(B矢印)、骨髄には、泡のような形をした髄泡(C矢印)が、また倍率を上げると骨髄(D)には血管や血管の上皮細胞(D矢印)が観察された。

薄切りにして着色した組織片 A 皮膚 B 筋肉 C 骨髄(100倍)D 骨髄(400倍)
筋肉中には多くの細胞核があり(B矢印)、骨髄には、泡のような形をした髄泡(C矢印)が、
また倍率を上げると骨髄(D)には血管や血管の上皮細胞(D矢印)が観察された。

筋組織から回収された細胞核。A 明視野での核 B 暗視野で赤い蛍光色を発している。

筋組織から回収された細胞核
A 明視野での核 B 暗視野で赤い蛍光色を発している。

右端のマウスの細胞核(C)は、7時間経過すると生きている証拠として核(F内矢印)が生長している

右端のマウスの細胞核(C)は、7時間経過すると生きている証拠として核(F内矢印)が生長している

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