中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第2回 シベリアの永久凍土に眠るマンモス復活大作戦~近畿大学先端技術総合研究所・入谷明教授を訪ねて

「1万年前に絶滅したとされるマンモスを、生命科学の技術で現代によみがえらせる」
そんな夢のような計画が進んでいる。シベリアの永久凍土に凍結されていたマンモスの細胞の核をメスのゾウの卵子に入れて、赤ちゃんマンモスを誕生させようというものだ。近畿大学の入谷明教授は、早くから人工授精の研究に取り組んできたが、その技術を役立てるため、マンモス復活プロジェクトに参加してきた。果たして、生命科学の最先端技術でマンモスが復活する日が訪れるのだろうか?

絶滅したマンモス復活の夢を追う

いまからおよそ500万年前、長鼻目類から進化したマンモスが地球上に姿を現した。ゾウに似ていて、大きな牙を持っていることに特徴があった。マンモスはその後、地球環境の変化に合わせて、アフリカ、ヨーロッパ、ユーラシア大陸、そしてシベリアへと移動し、約1万年前に滅亡したと考えられている。
なぜ、マンモスは地球上から姿を消したのだろうか。入谷教授はこの疑問に次のように答えてくれた。

「マンモスが滅亡した原因については、地球が急速に寒冷化した、人間による大量捕獲、温暖化が進んだため、という3つの説があります。私は、地球の温暖化によって、マンモスが暮らしていた北方地域では永久凍土が溶け始め、大地が水浸しになるなど、食料の植物が失われたからだと考えています」
いずれの理由であるにせよ、一度姿を消したマンモスは二度と地球上に現われることはなかった。

シベリアでマンモス発掘調査を開始

シベリアでマンモス発掘調査を開始

1997年、絶滅したマンモスの生きた姿を復活させようと、ロシアと日本などによる「マンモス復活計画」のプロジェクトチームが結成され、入谷教授も学術担当チーフとして参加することになった。
「私はそれまで、顕微鏡を見ながら卵子に精子を入れて人工授精を行う顕微授精を専門に研究していました。プロジェクトチームでは、シベリアの凍土で凍結したマンモスから精子を取り出し、それを日本に持ち帰ってゾウの卵子に顕微授精を行って、マンモスを復活させようと考えたのです。そのために、私の顕微授精の技術が必要で、私をマンモス復活計画のメンバーに迎え入れたのでした」
こうして、入谷教授はシベリアに向かうことになった。
「永久凍土の表面が融ける8月上旬~中旬に東北シベリアの地域調査をしてマンモスの発掘に立ち会いました。1週間探査したところ皮膚片が見つかりました。けれども、これを持ち帰ってDNAを解析したところ、マンモスではなくその時代に生きていた毛サイであることがわかってがっかりしたものです」
実は、皮膚片が毛サイであることが判明する前に、ある新聞に「マンモス復活計画の調査でマンモスの皮膚片が見つかる」という記事が出てしまった。訂正記事を求めたところ、「そんな、いまになって子どもの夢を壊すようなことはできませんよ」と言われたという。今となっては笑い話であるが・・・。

果てしなく広がるシベリアの凍土平原(遠くにコリマ川が見える)

果てしなく広がるシベリアの凍土平原(遠くにコリマ川が見える)

入谷明教授
入谷明(いりたにあきら)
近畿大学先端技術総合研究所 所長

1928年兵庫県淡路島生まれ。小さなときから動物や牛などの家畜に興味を持ち、京都大学農学部に進学。1953年同学部卒業。1960年代後半から大型家畜を対象とした体外受精の研究に着手。1976年京都大学教授。1992年京都大学名誉教授、近畿大学農学部教授。1993年近畿大学生物理工学部教授。1997年から2002年にかけてマンモス復活計画に参加。1999年同学部長。同年家畜における精子の受精能獲得と体外受精に関する研究で2000年日本学士院賞。2001年日本学士院会員に。現在、学校法人近畿大学理事、近畿大学先端技術総合研究所長。

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