中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

開発途上国の食糧事情改善、そして環境問題解決にも夢が広がる

さて、大量培養に成功したミドリムシだが、どのように利用されているのだろう?
「現在は、ミドリムシに含まれる豊富な栄養素を利用した栄養補助食品(サプリメント)として販売しています。サプリメント以外にも、クッキーやスープなど食品への利用も可能です。将来的には、開発途上国など、タンパク質やビタミンが不足している子どもたち向けの商品を開発し、栄養失調などの健康状態の改善に結びつけることができたらと考えています」

もうひとつ、こうした食糧としての利用のほかに、いま注目されているのが、地球温暖化防止の役割だ。ミドリムシは葉緑体を持っているため、光合成によって空気中のCO2を固定することができる。しかも、成長が速いことから、CO2固定能力が高いのだという。大坂府立大学の中野長久名誉教授らの研究によると、ミドリムシのCO2固定能力は、比較的高いとされるイネの約30倍にもなるとされている。
「二酸化炭素が10~15%くらいの高濃度のときが、一番生育スピードが速いという特徴があります。ですから、火力発電所が放出するCO2を利用してミドリムシの培養を速めると同時に、そのミドリムシによって途上国の食糧問題に寄与することができれば、温暖化と食糧問題という未来の人類の課題解決に寄与することができるわけです」

火力発電所から排出されるCO2濃度は10~15%で、ミドリムシが最も効率よく増えるんだ。

ミドリムシの光独立培養時の通気CO2濃度と生育の関係。15%の濃度で最も高い増殖能力を示し、40%の高濃度でも増殖する

このほか、石油に代わる燃料(エネルギー)としての利用研究も行われている。
「トウモロコシなどからバイオエタノールを生産して、ガソリンに代わる燃料として使うようになってから、食糧や飼料としてのトウモロコシが不足して値上がりする事態がおきています。ミドリムシをバイオマスとして燃料に利用することができれば、トウモロコシなどの燃料転用を抑えることもできるかもしれません」
大きな問題の一つは、今の段階では生産コストが高くついてしまうこと。たとえば実験室で生産したものを燃料に利用するとなると、1リットル何千円もしてしまう。これではとても石油に対する価格競争力はない。これからの課題は、大量に安く生産できるシステムをつくっていくことだという。そのためにもいま、同社では、大阪府立大学、東京大学、東京薬科大学、近畿大学、鳥取大学などとともに、ミドリムシの研究ネットワークを活用しながら研究を進めている。小さな生物の今後の活躍に期待したいところだ。

(2010年1月20日取材)

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