中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ニューロコミュニケーターの3つのコア技術

ニューロコミュニケーターは、3つのコア技術の組み合わせでできている。


コア技術(1)超小型モバイル脳波計

本来、頭の中で何を考えているのかを正確に解読するためには、脳の神経細胞がどのような電気信号をやりとりしているか、脳の中に細い電極を直接差し込んで記録する必要があるが、それには特殊な手術が必要で、安全性の面からも問題がある。そこで、開発にあたっては、正確性は劣るものの、安全性が高い頭皮上からの脳波記録方式を前提とした。
これまでの脳波計は大型で家庭用電源が必要だったが、実用的なものとするためには、小型でモバイル特性の高いことが重要だ。ケーブルが長いと首に絡まる危険性があるほか、何かに引っかかって機械が壊れてしまう可能性がある。また、ノイズが入りやすいために脳波計の性能に問題が出ることも指摘されていた。そこで、長谷川博士の研究グループが開発したのが、写真のように小さい無線方式の脳波計だ。これを水泳帽を素材として作った脳波キャップに固定する。電極は8箇所。「おやっ」と思った時に脳波に変化が表れやすい位置を選んである。この電極で記録された信号をすぐそばで増幅するため、ノイズも乗りにくい。ボタン型の電池で長時間稼働できることから、電源がない外出先でも使うことができる。世界最小レベルのモバイル脳波計といえるのだ。

手のひらにすっぽり収まる超小型無線脳波計

手のひらにすっぽり収まる超小型無線脳波計

ヘッドキャップに取り付けた超小型無線脳波計

ヘッドキャップに取り付けた超小型無線脳波計


コア技術(2)高速・高精度の脳内意思解読システム

コア技術の2つ目が、高速・高精度の脳内意思解読システムだ。
「認知機能には、記憶とか推論するとか、さまざまな働きがありますが、もっとも単純な認知機能のモデルは二者択一の意思決定です。脳やせき髄などに重い障害を負って、話したり書いたりできない人にとっては、YES/NO、右/左などの二者択一の意思を伝えることができるだけでも、他人とコミュニケーションをとる能力が飛躍的に向上します」
そこで、このような二者択一の意思決定をすばやく解読するために長谷川博士が独自に開発したのが、脳活動と意思決定の関連を多変量解析の手法を組み合わせて分析・関数化したアルゴリズムである。この技術によって、どのメッセージを選ぶかという意思決定において、1回の選択に2~3秒という早さで90%の予測精度を実現した。

「Go/No-go」タイプの意思決定

ニューロコミュニケーターの開発に着手する数年前、長谷川博士はモデル動物のサルをパソコン画面の前に座らせ、画面上に緑か赤の四角いマークを出し、そのマークが緑ならその場所に1秒後に眼を動かして「見つめる」、赤なら2秒間、眼を動かさず「見ない」というような「脳トレ」ゲームのような課題を訓練した。見つめる場合と、見ない場合とで脳の深部にある「上丘」と呼ばれる部分の神経細胞がどのように活動するかを記録し、上丘では目を動かす前に神経活動が起こること、そして、上丘におけるニューロンの活動と、最終的な行動との確率的対応を詳細に調べ、脳内で特定の意思決定が生起していくプロセスを「仮想意思決定関数」の値の時間的変化として表した。この関数の変動を観察することで、GoかNo-goかの脳内意思決定を刺激提示後わずか0.15秒ほどで予測することに成功した。この仮想意思決定関数がニューロコミュニケーターにおける意思決定の解読に活用されている。


コア技術(3)階層的メッセージ生成システム

コア技術の3つ目が、「階層的メッセージ生成システム」である。これは伝達したいメッセージ内容を効率よく作り上げるシステムだ。
ニューロコミュニケーターで提示するピクトグラムは、1回の選択で8種類。日常的にコミュニケーションしたいメッセージをいかに適切に選んでいくか? そこで採用されたのが、最初に大きなカテゴリーからひとつを選び、次に選ばれたカテゴリーの中からさらにメッセージの候補を絞り込んで、最後にもう一度、選択した段階でひとつの完成したメッセージを作る方法である。

たとえば、Aさんが「洗面所で歯を磨きたい」と伝えたいとしよう。まず、移動や食事、からだのケアなどを含む最初の大きなカテゴリーのピクトグラムの中から、「移動する」を選ぶ。次に、「病院」「屋外」「風呂場」「洗面所」などの中から「洗面所」を選ぶ。そして最後に「手洗い」「洗顔」「化粧」「歯磨き」などのピクトグラムから、「歯磨き」を選択すると「洗面所に行って歯を磨きたいです」というメッセージが作られる。ちょうど、英語の文法でS(主語)V(動詞)O(目的語)が決まると文章になるのと同じだ。
この方法だと、8種類のピクトグラムからひとつを選択する作業を3回繰り返すので8の3乗、つまり最大512種類のメッセージを非常に短い時間で作ることができるのである。ピクトグラムの種類は、使う人に合わせて自由にカスタマイズできるという。

なお、ニューロコミュニケーターでは、コミュニケーションを促進するために、パソコン画面上にメッセージが表示されるだけでなく、アバター(CGのキャラクター)の口パクアニメと連動してそのセリフが読み上げられる。
「介護・福祉の現場ではすでに文字盤やピクトグラムを使ったさまざまな技術が開発されていたので、それらを参考にすることができました。また、重い障害で自ら話せない人でも、自分の分身となるアバターをひとつ好きなものを選んで使えるので、自分だけの装置という感じで親しみやすさも増し、コミュニケーションも促進されると考えました」

階層的メッセージ生成システム

ピクトグラムは、最初は大きな項目(カテゴリー)が表示され、それを選ぶと、次にそれより詳しい内容の項目が表示されるというように、3つの階層に分かれている。

脳波の解読によって話すアバター
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